〇〇はDAOで〇〇はDAOじゃない、という様なツイートをよくタイムラインで見ます。しかし、なぜ人はこれから既存の組織形態(株式会社)ではなく、DAOを選ぶのか?具体的なユースケースについて話している人はほとんど見当たりません。そして、その理由は実際DAOのもとで繁栄する産業、グループ、または原因がどこにあるのかはまだ解明されていないからだと思います。
この記事ではDAOにフルタイムで働いて得た経験や、MakerやSushiで働いている友人と議論する中で出来たDAOのユースケースについての仮説をまとめてみようと思います。
Kohei.ethと申します。先月まで Index Coop というDeFiインデックスファンドのDAOにて日本チームのリードを担当しており、今はDAO向けの報酬設計ツールを作りながら、和組という日本向けWeb3コミュニティーを運営したり、This Week In DAOsというメディアを運営しています。
DAOで働き始めた経緯はこちらでまとめました↓
DAOのユースケースについて話す前にDAOの定義ですが、ここではDAOのことを「Web3の技術を用いた新しい組織形態」と表現したいと思います。抽象度が高い理由としては、DAOは目的に応じて様々な形が存在するからです。
例えば、既に証明されたDAOのユースケースは3つあると思っていまして、
共通点はありますが、組織構造が大きく異なる場合も少なくありません。では、なぜ人は既存の組織形態(株式会社)ではなく、DAOを選ぶようになるのか?
その理由となりえる6つの仮説を書き出してみました。
一つずつ解説していきます。
まず、DAOが組織形態として株式会社の 10x な理由は、株式をトークンに置き換えることで誰にでもフレキシブルに会社の所有権やガバナンス権を渡せる様になることです。
例えば、スタートアップの上場時に株式を保有しているのは創業者、投資家、一部の従業員のみでプロダクトに関わっていたほとんどの人たちは株式を保有していません。その理由は株式を渡す時に掛かるリーガルコストが高すぎたためです。
ここで問題なのは、いま日常的に消費されているコンテンツのほとんどはUGC(ユーザーから生み出されたもの)であることです。実際に価値を生み出しているユーザーには適切に報酬が分配されず、プラットフォーマーが搾取している構図は一目瞭然だと思います。また、プロダクトやブランドにおいてコミュニティーの重要性が叫ばれる様になってきましたが、コミュニティーにオーナーシップを渡すことは経済的アップサイドの共有だけではなく、熱狂的なコミュニティーを作ることに大きく貢献します。しかし、従業員ですら少数しか渡せていない株式を、ユーザーに渡すことはハードルが高すぎる。だからこそ、制約の多い従来の方法(株式)ではなく、トークンを使うためにDAOを選ぶ人が増えていくのではないかと考えています。
(SECによる規制等はここでは無視しています)
以前、$DATA founderの Thomasをインタビューした時に「ずっとスタートアップがやりたかった。去年ついに始めることを決めて、その為に株式会社ではなくDAOを作った。」と言っていたのが印象的でした。彼はDAOを選んだ理由の一つとして、Product base DAO = Onchain Corporation ではスマートコントラクトよって様々なビジネスプロセスや契約が自動化できることを挙げていました。
例えば、彼が運営しているDAOでは他DAOとのレベニューシェア契約が全てスマーコントラクトによって自動化(変更にはマルチシグが必要)されているそうです。また、書類や弁護士の手続きを介して進められていた様々な契約がスマートコントラクトによって自動化されることで、より生産性の高い組織を作ることができる様になります。
Thomasをインタビューしたエピソード↓
スマートコントラクトによって契約が自動化されているだけでなく、検証可能かつ改竄不可な形で規定されていることで、ネット上で出会った見ず知らずの者同士がコラボレーションできることもDAOの大きな利点です。
例えば、Aさん、Bさん、Cさんの三人がDAO hausで資金を出し合って投資DAOを始め、法人の所有権とガバナンス権を1/3で分けたとします。三人は互いを知ることなく、プロポーザルを通して共同で投資を行い、そこで生まれた利益を分配することができます。また、突然AさんとBさんが画策してCさんを追い出して資金を奪おうとしても、DAO haus上にレイジクイットというスマートコントラクトが実行されているため、cさんはそのプロポーザルに合意したくない場合自身が入れた資金を引き出して組織を抜けることが出来ます。
また、通常の法人設立には個人情報の開示が必須であるのに対して、DAOの場合は匿名のまま共同管理するトレジャリーの作成などコラボレーションすることが出来ます。偽名経済と言われたりもしますが、国籍や肌の色、性別などに左右されずに働ける環境作りには匿名性は大きな価値があり、それを実現するための組織作りとしてDAOを選ぶ人も増えていくのではないかと思います。
先日、Abridged founderの Jamesが Collab.landのDAO化を進めていることをEthDenver 2022で話していました。その理由として、株式会社ではなくDAOとして運営することで、コントリビューターの活動をオンチェーンに記録し、彼らの Verifiable credential が作り出すことを挙げていました。
現在は、採用時に学歴や職歴という断片的であり、どこで生まれるかによってほぼ機会が決まる運ゲー的基準をもとに評価しています。しかし、数年後には人々の活動がオンチェーンに記録され、その蓄積 = Onchain credentialがベースで評価されることで世界中の誰もが平等に稼ぐ機会、才能を生かす機会にアクセスできる様になると思います。以前、MakerでGrowth headをしているNadiaと話していた時も、学歴や職歴はほとんど見ておらず、その人がこれまでに行ったポスト、ディスカッション、プロポーザルをもとに評価していると言っていました。
Onchain Credentialをベースとした評価が普及していくことを考えると、より優秀な人を採用するために従来の組織形態ではなく、DAOというOnchain nativeな組織での運営を選ぶ人が増えていくのではないかと思います。
MCON 2021に Set lab founder Feliuxは、「マーケットで勝つためにどうやって急激なグロースを作るか(どうやってより多くのディストリビューションサポートを得るか)を考えた時、DAOとして運営し、ネィティブトークンを paid incentive program として使うことはグロースをスーパーチャージする最適な手段だと思った」と話しています。
通常スタートアップは外部から資金調達をして、その資本をもとに経営するのに対して、DAOの場合は国家の様に自分たちで自由にトークンを発行することができるため、アップフロントでより多くの資金を得ることが出来ます。
Felixが話している動画↓
DAOを選ぶ理由として、既存の法人設立コストを削減できることも挙げられると思います。
例えば、アメリカのデラウェア州で法人を設立する場合法人に関する書類を用意して、数千ドルの出費と約4週間の時間が掛かり、最終的には法人口座を作る為に銀行に出向かなければなりません。このため、他人と口座を共有して新しいプロジェクトを始めたくても、株式会社を作ることは金銭的にも労力や時間的コストにおいても気軽には出来ないのが現状です。
しかし、DAO hausなどのツールを使えば瞬時に法人(トレジャリーの共同所有・管理)を作ることができ、他人とコラボレートすることができます。界隈でよく「Starting business should be as easy as making a group chat」と言われますが、これはDAOには実現できても、株式会社には難しいのではないかと思います。(ツールを使えばある程度簡易化できますが)
数年後、新しく生まれた会社のほとんどはDAOとして運営されていると思います。しかし、どんな風にDAOは使われ、運営されているのか?そのユースケースは解き明かされていないのが現状です。まだ見えないことばかりですが、DAOが作り出す新しい雇用機会、働き方を信じ、その未来を実現するために精進していきます。