ePBSの奥深い世界へようこそ。これまでの初心者向けMEVガイドでは、MEVの基本的な概念やその背景について学びました。第四部では、さらに高度なトピックに焦点を当て、ePBSを中心としたMEVの最新の進展と技術を深く探求します。初めに、PBSやMEV-Boostといった既に触れたトピックの復習から始めます。続いてOptimistic RelayやTwo slots PBS, PEPCといった最近の議論の解説を通じて、ePBSの最前線での動向や研究の方向性を探ります。最後に、インクリュージョンリストやMEV smoothing、MEV Burnといった概念や技術について紹介します。皆様の有益な学びの時間となることを願っています。
PBSはバリデーターの分散化のためのアイディアです。高度な知識や高性能なマシンを必要とするMEV抽出をアウトソーシングすることで、MEVが民主化され、小規模なバリデーターでもMEV収益を得られるようになると考えられています。PBSの外部実装として、MEV-Boostが開発されました。MEV-Boost内のビルダー、リレー、プロポーザー(バリデーター)について復習しましょう。
ビルダーはブロックを構築し、プロポーザーはオークションを開催して選ばれたブロックをチェーンに記録します。プロポーザーがビルダーのMEVを盗むリスクがあるため、リレーが間に入る仕組みとなっています。リレーはビルダーのブロックの有効性を確認し、ブロックの内容を隠してプロポーザーのオークションに入札します。リレーはブロックの内容を知っているため、ビルダーからMEVを盗まないと信頼される必要があります。また、ビルダーからの支払いトランザクションがプロポーザーには確認できないため、プロポーザーからのオークション支払いが確実に行われることが信頼される必要があります。このように、リレーは重要な役割を持っていますが、現在、多くのリレーは手数料を受け取っていません。手数料を要求すると、リレーを迂回するインセンティブが生まれ、ビルダーとプロポーザーの垂直統合のリスクが高まる可能性があるからです。
参考:
初期のMEV-Boostのリレーはこれまで説明したようにビルダーのブロックが全て有効かどうかを確認する役割を持っていました。これは時間のかかる作業でした。オークションはFCFS(先着順)に比べ、レイテンシの影響を低減できる方式ですが、実際にはレイテンシの影響は完全には取り除けません。入札額は時間が経つにつれて上昇するため、現在の入札額を知り、期限内に新たな入札を行う際には、レイテンシが低い方が有利です。また、アービトラージの経路探索などは比較的計算負荷が高いため、ブロックタイム内で可能な限り長い時間を計算に費やすことで、より大きなMEVを抽出できる可能性が増します。
このような背景から、レイテンシの削減は非常に重要となり、リレーのレイテンシは深刻な問題として浮上しました。そこで、ultra soundリレーを中心に、「optimistic relay」(楽観的なリレー)が考案・実装されました。optimistic rollupを参考にすると理解しやすいですが、optimistic relayはブロックの内容を確認せずにオークションに参加するリレーのことを指します。現行のoptimistic relayの仕組みでは、事前に認可されたビルダーが1ETHをリレーに預け、もしブロックの内容が無効であることが判明した場合、ペナルティとして没収されます。
参考:
Two slots PBSはVitalikが提唱したePBSの方式です。MEV-Boostをイーサリアムのプロトコル内部に組み込んだ形になっています。MEV-Boostのセキュリティはリレーの信用に依存しているため、十分に高いとは言えません。この問題を解決するために、以下のような変更が提案されています:
リレーを削除する。
プロトコル内でリレーを固定化する。
プロトコル内でビルダーを固定化する。
証明者がリレーの役割を果たすようにする。
合意は有効でなければならない。
実行は利用可能であること。
無効な実行は許容されない。
具体的なステップについて説明します。
ステップ0: ビルダーのビーコンチェーンへの登録
ビルダーは、合意形成のアクターとしてビーコンチェーンに登録される。
バリデータの登録と同様、ビルダーもETHをデポジットとして提供して登録する。
ステップ1: ビルダーのヘッダーの提出
ステップ2: プロポーザーのヘッダー選択とブラインドブロックの提出
ステップ3: ブラインドブロックのためのアテスター(証人)の証言提出
ステップ4: ビルダーがブラインドブロックを公開し、完全なビーコンブロックを提出
ステップ5: アテスターとアグリゲータがビーコンブロックに投票
参考:
PEPC(Protocol-Enforced Proposer Commitments)は、プロポーザーが外部から委託されたブロック構築タスクに対して信頼性のあるコミットメントを行うための一般化されたインフラを指します。簡単に言えば、PEPCはブロック生成に関する「約束」を明確化し、その守られることを保証する新しいシステムです。このようなシステムは、以前のMEV-Boostには存在しませんでした。プロポーザーはオークションでブロックヘッダーと入札金額のみを基に選択を行うため、ブロックの具体的な内容を知ることができなかったのです。また、2つのブロックに署名する行為はスラッシュ対象となるため、1つのブロックの構築は1つのビルダーのみが行うという制約が存在していました。
PEPCの導入により、1つのビルダーに対するフルブロックオークションだけでなく、複数のビルダーに対する部分的なブロックオークション、後述するインクリュージョンリスト、将来のブロック生成権、ロールアップブロックの有効性証明など、柔軟にカスタマイズ可能なアウトソーシングメカニズムが構築できるようになります。PEPCの動作は主に「コミットフェーズ」と「リーヴィールフェーズ」の2つのステップから成り立っています。
コミットフェーズ:プロポーザーは「コミットブロック」を作成。このブロックには、プロポーザーがコミットする内容や、ブロックの形状(ペイロードテンプレート)が含まれる。
リーヴィールフェーズ:このフェーズで、ビルダーはプロポーザーがコミットした内容に基づき、具体的なブロックデータを公開する。
PEPCに類似したアイディアとして、EigenLayerのブロック構築のコンセプトがありました。EigenLayerは、不正なビルダーをペナルティとして排除し、ブロック構築のコミットメントを強化するものです。現在、PEPCをプロトコル内部で実行すべきか、それともEigenLayerを利用すべきかについての議論が続いています。PEPCをePBSとして、またはSUAVEの強化手段として使用することが検討されています。
参考:
検閲に対抗するため、トランザクションがブロックに必ず含まれることを保証するリストを作成するというのがこのアイディアの核心です。ブロックのサイズは有限であり、mempoolからどのトランザクションをブロックに取り込むかはビルダーが選択します。もしビルダーが特定のトランザクションを検閲する場合、そのトランザクションはブロックに含まれなくなります。この問題を解決するために、前述のPEPCなどの手法を使用して、トランザクションがブロックに必ず含まれるように保証します。現在検討されているcrLists + EIP1559の方式では、ブロックに空きがある場合、インクルージョンリスト内のトランザクションを必ず取り込む必要があります。しかし、ブロックが満杯の場合、その義務は発生しません。EIP1559のルールに従い、ブロックが完全に埋まっているとガス価格が上昇するため、最終的にはブロックに空きが生じ、トランザクションは取り込まれると期待されます。
参考:
MEV Smoothingは、MEVの利益を平滑化することを目的としています。MEVを平滑化する最大の理由は、MEVサプライチェーンの集中化を回避することです。現在のMEV収益は平滑化されておらず、非常に偏った割合で分布しています。大半のブロックのMEV収益は小さいものですが、時折、非常に大きなMEV収益のブロックが生まれるため、この現象が起きます。このため、現在のMEVの利益は、一部の幸運なバリデーターによって独占されていると言えます。MEV収益の極端な偏りから、リスクヘッジのためにbot同士が連携し、独占的なMEVプールが形成される可能性も指摘されています。
MEVの利益を平滑化するための現在有望視されている方法は、MEV Burnです。MEV収益の一部に相当するETHを焼却(バーン)することで、デフレーションを通じて全てのETH保有者にMEV収益を広く分配することが可能になります。MEV Burnを実装するには、プロトコルがMEVの量を正確に把握できる必要があります。また、バーンを迂回する経路でブロックを生成し、MEVを抽出することができないようにする必要があるため、MEV Burnの実装にはePBSが必要とされています。MEV Burnの具体的な方法については、多くの議論が交わされています。
参考:
最後までお読みいただき、ありがとうございます。次回はイーサリアム以外のチェーンのMEVについて紹介します。お楽しみに!
(※本文は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。)