イーサリアムの外のMEVの世界へようこそ!これまでの章では、イーサリアム上でのMEVの基本的な概念と動作について学びました。しかし、ブロックチェーンの世界はイーサリアムだけではありません。多くの他のチェーンも存在し、それぞれに独自のMEVの機会と課題があります。
さあ、イーサリアムの枠を超え、ブロックチェーンの新しい地平を一緒に探求しましょう!
JitoはSolanaのMEV整備プロジェクトです。Solanaは低レイテンシで高速な取引が可能なチェーンです。Solanaのブロックタイムは400msで、イーサリアムとは異なり、ノード間で共通のmempoolを持っていません。各DappsからはRPCを通して、現在のスロットリーダーと次回のスロットリーダーのバリデーターノードにのみトランザクションが送信されます。公開されたmempoolを持たずトランザクションが迅速に処理されるため、フロントランニングは困難であり悪質なMEVは発生しづらいとされています。しかし、バックランニングの競争によるネットワークへの負荷は深刻な問題となっています。DEX-DEX間やCEX-DEX間の価格の歪みはアービトラージによって迅速に修正されますが、最速でアービトラージトランザクションを通す者が最大の利益を得るため、大量のスパムトランザクションでネットワークが埋まることがあります。これが原因でSolanaのネットワークが停止する事態も発生しています。
JitoはMEV整備のためにブロックスペースをオークションで販売します。これはFlashbotsのMEV-Boostに似たアイディアですが、いくつかの違いがあります。Jitoを導入したバリデーターがスロットリーダーになるとトランザクションは最初にリレーに送られ、最大200msの遅延の後にバリデーターに転送されます。これは、バリデーターがMEVを不正に取得する時間的余裕を排除するためです。リレーに送られたトランザクションは直ちにブロックエンジンにも送られ、ここで全トランザクションの有効性が事前に確認されます。
サーチャーはブロックエンジンに接続し待機中のトランザクションを確認できます。サーチャーはトランザクションがバリデーターに転送される前にMEV抽出の戦略を練り、atomicバンドルとオークションの入札額をブロックエンジンに送信します。atomicバンドルはオール・オア・ナッシングのトランザクション群でatomicアービトラージが可能です。オークションで勝利したサーチャーのatomicバンドルはバリデーターに送信され、ブロックに取り込まれます。このように、JitoはSolanaの高速な取引の特徴を犠牲にせずMEV整備を目指すプロジェクトと言えます。
参考:
Skipは、Cosmosを中心としたエコシステムで活動するMEV整備プロジェクトです。POB(Protocol-Owned-Building)の実装を通じて、ソブリンMEVを実現します。現在、多くのCosmosチェーンは、最初に来たものが最初にサービスを受ける(FCFS)方式を採用しており、これはレイテンシ戦争を引き起こします。サーチャーはバリデータと地理的に近い場所にbotを配置し、大量のスパムトランザクションを送信することでアービトラージでの勝利の機会を増やします。これは無駄なブロックスペース、ガス価格の上昇、チェーン停止リスクなど多くの負の外部性を生む原因となります。
SkipはMEV-Boostと同様にブロックオークションを実施し、トランザクションを優先的にブロックに組み込むことができます。
Skipの特徴的なアプローチはPOBです。これは、プロトコル自体がMEVを獲得する(Sovereign MEV)ことで、「悪いMEV」を防ぐというアイディアに基づいています。
MEV-BoostはPBSのプロトコル外実装であり、ePBSはイーサリアムプロトコル内での実装でした。Ethereumは多くのバリデータ参加者を増やすことで分散を目指すセキュリティモデルを採用しています。このためPBSはバリデータのハードウェアスペックを緩和する上で不可欠でした。一方、Cosmosは複数のチェーンが存在するため一つのチェーンあたりのバリデータ数が少なくても分散が可能という考え方で設計されています。これにより、高スペックのバリデータマシンを持つことが可能であり、バリデータによるブロックビルディングが実現できます。この方式によりデリゲートを通じてトークンホルダーコミュニティから選出されたバリデータのみがMEV抽出が可能となり、コミュニティに不利益をもたらすMEV抽出は制限されるようになりました。獲得したMEV収益はコミュニティの主権のもとでプロトコルに蓄積されます。Skipは、アービトラージの機会を損なわせるためのトランザクションの検閲や並べ替え(サンドイッチ攻撃)を行うバリデータ、またはスパムトランザクションによるDDoS攻撃を試みるトレーダーのアクセスを制限することができます。
参考:
Espressoは、ロールアップの共有シーケンサーを目指すプロジェクトです。彼らの定義する共有シーケンサーはロールアップのブロックの順番を決定する存在であり、ブロック生成そのものには関与せず、SUAVEなどのブロックビルディングプロジェクトとの接続を想定しています。この観点から、彼らがL2におけるPBSを目指していると言えます。現在の多くのロールアップは中央集権的なシーケンサーを採用しているため分散化の必要性が高まっています。Espressoはhotstuffを基に改良したhotshotを採用し、シーケンサーノード間のコンセンサスを取得することで分散化を実現しています。この分散化の代償として、1〜2秒のレイテンシが追加されるとされています。
共有シーケンサーは複数のチェーンのブロックを提案するプロポーザーとして機能し、チェーン間のインターオペラビリティの向上が期待されます。MEVの文脈ではクロスチェーンMEVの可能性が拡大します。複数のチェーンで同時にブロックを取り込むことを保証する「atomic inclusion」が可能となります。ただし注意点として、atomicな実行そのものが保証されるわけではありません。2つのチェーンでatomicなバンドルを提出しても一方のチェーンで成功し、もう一方で残高不足などの理由で失敗する可能性が存在します。この際、atomicな実行を「保証」するエンティティの存在により実質的にクロスチェーンのatomic実行が可能となります。共有シーケンサーに接続される2つのチェーンのフルノードを運用している場合、両方のチェーンのトランザクションの成否を主観的に予測することができます。片方のトランザクションが失敗した場合、スラッシングの対象となるリスクを受け入れ、両方のチェーンにatomic inclusionされるブロックやバンドルをユーザーの意向に基づいて生成するソルバーにより、atomic実行が保証されることが期待されます。
参考:
Taikoははイーサリアム上のzkRollupプロジェクトで、Based Rollup方式の採用を模索しています。Based Rollupの特徴はトランザクションの順序付けをLayer 1 (L1) に「アウトソース」することで、シーケンサーのダウンリスクや分散性の問題をイーサリアムL1と同等に維持できる点にあります。これにより、トランザクションの処理速度を向上させる一方でEthereumのセキュリティを継承することができます。
Based Rollupの動作において、MEVは重要な役割を果たします。
L2のサーチャーはL2のトランザクションをバンドルにまとめ、それらをL2のブロックビルダーに送信します。
L2のブロックビルダーはこれらのバンドルを受け取り、ブロックを構築します。L2のブロックビルダーは、L1のビルダーが使用するMEV-Boostを実行することができます。
L2のブロックビルダーはL1のサーチャーとしても機能することができ、自身でL2のブロックをL1のバンドルに含めることができます。
L1のブロックビルダーは、ブロックに少なくとも少量のMEVが含まれている限り(そしてガスリミットに達していない限り)、L2のブロックを自らのL1のブロックに含めます。
L2からL1へのブロックは、MEV-BoostやSUAVEなどによるプライベートオーダーフローを通じて移動します。これにより、MEVが盗まれる可能性が低減します。
サーチャーがイーサリアムL1のmempool、Based Rollupのmempool、および両方のチェーンの状態を監視している場合、Based RollupとEthereumの間のクロスチェーンMEVを構築するバンドルを作成することができます。クロスチェーンMEVは、Based Rollups間(例: 二つのTaiko L2s間)でも抽出することができます。
Based Rollupの課題として、L1のサーチャーやビルダーがL2ブロックを取り込む主なインセンティブがMEV収益であるため、それが十分に魅力的でない場合L1にブロックが取り込まれなくなるリスクがあります。Based RollupのファイナリティはL1に依存しているため、MEV収益が見込めないL2トランザクションは実行されなくなる可能性があります。また、Based Rollupはシーケンサーの分散化をシンプルに実現し、トークン発行が不要となるなどのメリットがありますが、ロールアップネットワーク自体のMEV収益がEthereum L1に流れることで、ロールアップの収益化が難しくなる可能性が考えられます。
参考:
ここまで、初心者向けMEVガイドを読み進めてくださり、本当にありがとうございます。イーサリアムをはじめとする多様なチェーンにおけるMEVの奥深さを一緒に探求できたこと、大変嬉しく思います。
このシリーズはここで一旦の完結を迎えます。しかし、ブロックチェーンの世界は日々進化しています。MEVの領域も、新しい発見や変化が絶えません。今後も学び続け、この知識を活用して、ブロックチェーンの未来を共に築いていきましょう。
(※本文は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。)