初心者向けMEVガイドもついに第三部です。ここまでの旅でMEVの基礎を一緒に学ぶ姿勢と熱意に感謝します。今までの章で獲得した知識を基に、本部ではより深いテーマへと挑みます。MEV-Boostの現在の課題と、EOFやOFA、インテントという新たな概念を紐解いていきましょう。これらの理解を深めることで、MEVの全体像がさらに明確になることでしょう。最後にMEVの未来と言われるSUAVEについて紹介します。引き続き、一緒に学び成長していきましょう。
MEV-Boostを始めとする現在MEV対策ソリューションが抱える問題の1つにEOFがあります。 EOFは簡単に言えば少数のブロックビルダーがユーザーのトランザクション(Order Flow)を共有せずに独占することです。多くのトランザクションを知ることが出来ればより大きなMEVの抽出ができる可能性が高まります。多くのビルダーは独自のプライベートmempoolを持ち、公開されたmempoolに送信されない、EOFなトランザクションを入手できます。現在のMEVは少数の上位bot(サーチャー)によって寡占されている状態です。ここで サーチャーとビルダーが癒着した場合、価値の高い(オークションで勝てる)MEV抽出ブロックを独占できます。EOFを持たない弱小ビルダーはオークションで勝てなくなり、手数料収入を全く得ることができなくなります。 つまり少数のビルダーによる寡占or独占がより強化されてしまうのです。 これが循環することによってEOFはどんどん深刻になってしまいます。
現時点でのEOFを多く得ているビルダーがブロックオークションで多くの勝利を得ている傾向があります。 EOFはサーチャー、ビルダーの間に留まらず、MEVサプライチェーンのあらゆる場所に生まれる可能性があります。 近年MEVサプライチェーンはOFA, インテントの導入によって変化をしようとしています。それらについて見ていきましょう。
参考:
OFAはMEV対策のより進んだ形として現在導入が進められています。 これまでのMEV-Boostはプロポーザーに対してブロックビルダーが入札するオークション形式でした。OFAではあなたのトランザクションをサーチャーやビルダーが買い取るオークションになります。
あなたの注文(Order Flow)がMEV抽出価値が大きな場合、高額で入札されると考えられるので、これまでと逆の向きにMEVが還元されることが想定されます。 汎用的なOFAはMEV-ShareやMEV Blockerとしてすでに実装されています。ブロックチェーンのユーザーからすればMEVが還元されるのは大きなメリットなのですが、現時点ではあまりうまく機能してないという評価もあります。OFAを行うと最も多くのMEV還元するビルダーを選択するために複数のビルダーにトランザクションを送信するインセンティブが生まれることから、EOFが緩和されることが予想される一方でMEV-ShareはFlashbots, MEV BlockerはbroXrouterら単独(あるいは少数)の組織によってやや中央集権的に運営されており、それらの組織によるEOFの懸念があります。
参考:
OFAを拡張した考えとしてインテント(意図)という概念があります。 これはユーザーがトランザクション作成を第三者にアウトソーシングするというものです。 トランザクションを作成する第三者の呼称は色々(ソルバー、フィラー、バンドラーなど)あって定まっていません。 ユーザーは抽象的にブロックチェーン上でやりたいことを伝え、第三者は最適と思われる複数のトランザクションを発行して実現します。
インテントはブロックチェーンのUXを大幅に改善することが期待されています。例を挙げると
現在、Arbitrumネットワークで分散型アプリケーション( dApp )を操作したいが、現在資金がEthereumブロックチェーンに保存されているシナリオを想像してください:
dAppのWebサイトにアクセスする
ウォレットとArbitrumを接続しようとしますが、利用可能な資金がないことに気づきます
新しいタブを開いて、資金を橋渡しする最良の方法を探る
ブリッジのウェブサイトに行く
ウォレットを別のブロックチェーンに接続します( Ethereum )
EthereumからArbitrumに資金を転送するブリッジプロセスを開始します
ブリッジトランザクションが完了するのを待ちます
元のタブに戻る
ウォレットをアービトラムに切り替えます
これで、最終的に、ブリッジされた資金でArbitrumのdAppを使用できます
これらの作業をインテントを用いれば大幅に短縮が可能でしょう。
参考:
第三者が代わりにトランザクションを発行するインセンティブはMEVです。つまり、OFAと同様にMEV抽出価値の高いインテントはうまく機能すると考えられる一方で、価値の低いインテントは無視される可能性があります。汎用的なインテントの考えはAccount Abstraction(AA)と相性がよく、統合される可能性があります。ウォレットはトランザクションではなくインテントを送信する形になると想像できます。 アプリケーションレベルでインテントを実装した初期の例としてCowSwapがあります。トレーダーとソルバーのP2Pネットワークによってmempoolを介さない取引を可能にしています。最近の例ではUniswapXが挙げられます。フロントランニングされない(サンドイッチされない)というインテントやクロスチェーンスワップしたいというインテントに対して、対応するフィラーが代わりにトランザクションを組み立て発行します。 アプリケーションレベルのインテント中心設計の場合はEOFがより深刻な問題となる可能性があります。それらはEIF(Exclusive Intent Flow)と呼ばれることもあります。 UniswapXが多量のEIFを獲得した場合、取引はuniswapに集中すると考えられuniswap(のフィラー)によってMEVが独占されます。 uniswap(あるいはその裏にいる国家機関など)による検閲のリスクが極めて高くなり、それを回避するために非常に高いコストが必要になります。 EOFの場合、悪意のあるビルダーを回避するにはRPCを変更すれば済みますが、EIFの場合はウォレットも変更する必要がある可能性があります。
EOF, EIF低減のためにはより多くのエンティティが自由に参加できるMEV市場が必要です。そこで考え出されたのがSUAVEです。
参考:
SUAVE(the Single Unifying Auction for Value Expression)はインテント(Flashbotsの呼称はプリファレンス)を中心としたOFAを行う分散ブロックビルディングプロジェクトです。Flashbotsが発起したプロジェクトですが、現在オープンに議論が進められています。SUAVEは他のインテント中心プロジェクトと比較するとEOFの回避を念頭に置いて設計されています。SUAVE自体がパブリックチェーンを構成していてEVMを改変したMEVM上でmempoolを構築します。このSUAVE(の最終形)ではmempoolはSGXによってユーザーの趣向に応じた秘匿化がされます。これまで「信頼できる」ブロックビルダーのプライベートmempoolにのみTxを送信することによってプライバシーの確保(=フロントランニングの回避)が可能だったのですか、SGXによって秘匿化されたmempoolは信頼関係を必要とせずにプライバシーが保たれます。SUAVEのmempoolはパーミッションレスに参加できるブロックビルダーから参照できることからEOFの回避に繋がります。
また、SUAVEは複数のチェーンのブロックビルディングを担当することができます。ユーザーのクロスチェーンに跨るインテントに応えることができると同時にクロスチェーンMEVの抽出が容易になります。
SUAVEはユーザーにはインテントの利便性やOFAによるMEVの還元、ブロックビルダーにはクロスチェーンMEVのインセンティブで参加を促し、MEVサプライチェーンとしてはオープンな競争を促すことによってMEVの民主化を進めるプロジェクトと言えるでしょう。
参考:
ここまでは主にFlashbotsが主導してきたイーサリアムプロトコル外部のMEV整備のプロジェクトについて説明してきました。一方でPBSをイーサリアムのプロトコルに内蔵したePBSも議論が進んでいるので第4部で解説します。一緒にMEVの森を探検しましょう!
(※本文は情報提供を目的としており、投資助言ではありません。)