Web3.0化が進むとソーシャルメディアはどうなるの @datakash
February 3rd, 2022

特にソーシャルメディアにフォーカスしてWeb3.0について考えると、どんな変化が起きていて今後どんな変化が起き得るのか。

まだまだ理解できてないことが多いが色んなところに書いてあったことと、考えたことを羅列的に書いていく。

Web2.0ソーシャルメディアの課題

IT/TCPのようなオープンなプロトコルで設計されたインターネットは、中央の管理者が存在する分裂したネットワークの集まりではなく、単一のグローバルなネットワーク “The Internet” だ。しかしオープンソースでの収益化はむずかしいので、Web2.0のテックスタートアップたちはインターネットのオープンプロトコルの上にそれぞれのクローズドなプロトコルを築き、中央集権的に成長してきた。

FacebookやTwitter, Snapchatのようなソーシャルメディアプラットフォームが提供してくれるサービスのおかげでわたしたちは既存の友だちとのつながりを保ち、新たなソーシャルネットワークを築き、地球の反対側にいる人にも即座にコンテンツを共有できる。人々はテックジャイアンツから大きな恩恵を得ている。

だけど、現状に対して問題を提起する人たちもでてきた。

Googleのvalueにあったのは “Don’t Be Evil" であり、これは中央の機関が善である前提。国家であれば民主的にみんなで選ばれた人たちがルールを決めて政治を執行するが、デジタル上の国家ともいえるほど成長した巨大プラットフォームは株式会社による運営であり、民主主義的に選ばれたわけではない一部の人たちがルール決めと執行を行う。

テックプラットフォームがユーザーのコンテンツ、ネットワーク、プライバシーデータといったデータを所有しており、ユーザーはどう使われるのかはわからない。Facebookのケンブリッジ・アナリティカの例のような事件もあった。

つまり、ユーザーがプラットフォーム上でコンテンツを生成して共有するということは、実質的にはプラットフォームに無料で納品し、作成者なのに一時的にレンタルして使わせてもらっているような状態ということ。もしプラットフォームがなくなったり、アカウントをバンされたりすればコンテンツもソーシャルネットワークもアクティビティ履歴もすべて消失することになる。

これはリアルな世界で考えると

「NIKEが倒産したらおれのスニーカーが急に消えてなくなった…!!!」

みたいな世界観とも言える。

「中央集権的プラットフォーム」「ユーザーが所有できないプライバシーやデジタルデータ」このような状況に対するアンチテーゼとして生まれてきた概念がWeb3.0だ。

Web3.0化するとソーシャルメディアはどう変わっていくのだろう。

UGCとソーシャルグラフ、プライバシーの所有権がユーザーに移行する

Web3 is the internet owned by the builders and users, orchestrated with tokens.

Packy McCormickさんによる定義だと、Web3.0とはトークンによって指揮され、ビルダーとユーザーによって所有されるインターネット。

ブロックチェーンは誰もがアクセスできるが誰も所有していない特別なコンピューター群。ブロックチェーン上にあるトークンはユーザーに「インターネットのかけら(デジタルアセット)」の所有権を与える。

今までURLや画像といったデジタルアセットは容易にコピー可能で、いくらでも流通量を増やせるため、所有権を持ったり、ユニークな価値を見出すことが難しかった。

NFTはブロックチェーン上にあるトークン上にデジタルアセットのトランザクション履歴を改ざん不可能な形で記録することで、トランザクション履歴を検証可能にしたり流通量をコントローラブルにした。これによってデジタルアセットに所有する価値が生まれた。

NBA選手の試合ハイライトをNFTとして所有することができるサービス「NBA Top Shot」

ソーシャルメディアにおいて考えてみると現状ソーシャルメディア上で共有するコンテンツはいくらでもコピー可能である。しかしUGCがNFT化されていれば自分のコンテンツは自分が所有者であるとオンチェーンのトランザクション履歴から検証可能になるということ。

また、現状のWeb2.0サービスはHTTPプロトコルによって中央の管理サーバーに対してクライアントがリクエストを送ってレスポンスを受け取る仕組みであり、ユーザー側でデータの使われ方を検証できない。しかしWeb3.0においてP2Pプロトコルを用いた分散型サービスが提供されることになればデータはプラットフォームではなくユーザー個人が持つようになり、データを他社に提供するかしないのかをユーザー自身が選択できるようになる。

現状ではソーシャルメディアの情報はプラットフォームが持ち、それを広告主に提供したり、分析ツール提供会社などに販売しているが、ユーザー自身がデータ提供を拒むことも、自分のデータの販売価格を自由に設定することも可能になるかもしれない。マーケティング消費者調査の被験者として情報を提供し、お小遣いを稼ぐ感じにも近いかもしれない。

そしてソーシャルメディア上の友だちとのつながり「プライベートグラフ」や、興味関心でつながる「インタレストグラフ」も、Web2.0の世界において所有権はユーザーではなくプラットフォームにある。

2019年にはアメリカにおいてTikTokがバンされる、あるいはオラクルに買収されるといった懸念が勃発し、TikTokクリエイターたちはTikTok上のフォロワーの喪失に焦った。これはまさにTikTok上のソーシャルグラフの所有権が実質的にユーザー自身にないことを示すいい事例だ。

しかしWeb3.0においてはソーシャルグラフもプラットフォームからユーザー自身へ所有権が移行するだろう。

CyberConnectはEthereumやSolanaのウォレットアドレス、つまり「ウォレットグラフ」でつながるソーシャルメディア。

CyberConnectのサイト上の宣言

People are getting tired of registering and re-declaring their friend relationships on every site. This is especially true in web3 where each user's identity is already portable across sites. With a decentralized social graph owned by users instead of platforms, each user is able to leave an app and join a new one without losing any friends or having to migrate everyone. New social applications could all focus on creating and curating the best content and forget about rebuilding the wheels of a social graph database.

At the dawn of Web3, connecting addresses is just the first step of building a comprehensive decentralized social graph. An address contains only on-chain assets, and it is just a part of a complete identity. A user may have multiple addresses on different blockchains, social profiles such as Twitter, and off-chain data scattered in different applications. Connecting identities is our long-term vision. We've seen multiple endeavors implementing the DID standard, striving for wider adoptions of decentralized identities. The decentralized social graph we desire is an extensive hypergraph, the indispensable building block for prosperous social applications on Web3.

和訳すると

人々はそれぞれのサイト上で友人関係を登録し再申告することに飽き飽きしている。これはそれぞれのユーザーアイデンティティが既にサイトを横断してポータブルになっているWeb3.0において特に真実である。プラットフォームの代わりにユーザーによって所有された分散型ソーシャルグラフによって、それぞれのユーザーは友だちとのつながりを失ったり全員をマイグレートさせなくても、あるアプリから去って、新しいものに参加できるようになる。新しいソーシャルアプリケーションはソーシャルグラフデータベースを再構築することを忘れて、最高のコンテンツを創作・キュレートすることに全集中できる。

Web3.0の夜明けにおいて、アドレスを接続することは包括的な分散型ソーシャルグラフを構築する最初のステップに過ぎない。アドレスはオンチェーンのアセットしか含んでおらず、それは完全なアイデンティティの一部に過ぎない。ユーザーは異なるブロックチェーン上に複数のアドレスやTwitterのようなソーシャルプロファイル、異なるアプリケーション上に散らばったオフチェーンデータを持っているかもしれない。アイデンティティの接続は我々の長期的なビジョンだ。わたしたちは分散型IDスタンダードの実装努力や分散型アイデンティティの幅広い採用努力を見てきた。私たちが欲する分散型ソーシャルグラフはWeb3.0上の反映するソーシャルアプリケーションのために必要不可欠な広範なハイパーグラフだ。

自分が自分のアイデンティティをオンチェーンで所有し、ウォレットグラフでつながれば特定のソーシャルメディアのデータベースに依存しないので、新しいソーシャルメディアで新たなネットワークを0から構築する必要はなくなる。

またWeb3ソーシャルプラットフォームを開発者向けに、ユーザーが所有するPolygon上の分散型ソーシャルグラフをプラグインできるオープンプロトコル Lens Protocol も生まれている。これも楽しみ。

このようにWeb3.0においてはコンテンツだけでなく、ユーザーがソーシャルグラフも所有し、一つのサイトに依存せずプラットフォームを横断したインターオペラビリティのある形でソーシャルグラフを築けるようになる。

クリプトによるソーシャルコマース体験

この記事はとてもおもしろかった。

人類文明の進歩は、規模が拡大し続ける協力の物語。大規模な協力を動かしているのは、すべて信用。信用とは誰かとやり取りするのがうまくいくだろうというある種の自信。信用を築くための手法は歴史的に劇的に変化してきた。

▼ソーシャルによる信頼
コミュニケーションするときに本能的に送る生物学的シグナルである顔の表情やボディーランゲージなどによる信用。これによって、家族や身の回りの人は言動次第で信頼できて連帯ができる。

▼機関による信頼
教会、学校、国家、企業、銀行みたいな組織による信用。信用の規模を拡大するのに役立ってきた。たとえばメルカリで知らない人同士で決済のやりとりができるのはメルカリという信頼できる機関が取引を仲介してくれるから。

▼プログラマブルな信頼
ある種の信用はプログラム可能。クリプトネットワークによって担保可能な信用。

Web3.0においては中央機関が存在しなくてもコマーストランザクションの信用をプログラムによって担保できる。

実はWeb初期に作られたHTTPレスポンスステータスコードには402 Payment Requiredというエラーレスポンスが存在している。

Webのオリジナルのソースコードには、ユーザーへの支払い機能が想定されてたし、インターネット・エクスプローラやネットスケープといったブラウザは決済機能を組み込もうと思ってたけどセキュリティ・技術的な理由で実現されなかったらしい。

しかし今はインターネットネイティブな通貨(クリプト)があり、Metamaskのようなサイトを横断して相互運用性のあるクリプトウォレットがある。

現在InstagramやTikTok, Snapchatなどが競ってソーシャルコマース機能を開発しているが、Metamaskなどのクリプトウォレットとコネクトして、ソーシャルメディアユーザー同士が直接クリプトで売買するソーシャルコマース体験が生まれるかもしれない。

メディアの価値を高めるUGC創出が報われる

DAO (Decentralized Autonomous Organization) という組織形態が最近よく言われてる。

DAOs are an effective and safe way to work with like-minded folks around the globe.

Think of them like an internet-native business that's collectively owned and managed by its members. They have built-in treasuries that no one has the authority to access without the approval of the group. Decisions are governed by proposals and voting to ensure everyone in the organization has a voice.

There's no CEO who can authorize spending based on their own whims and no chance of a dodgy CFO manipulating the books. Everything is out in the open and the rules around spending are baked into the DAO via its code.

この定義によるとDAOの特徴は以下。

  • 世界中の志を同じくする人々と働く効果的で安全な方法。
  • メンバーによって共同で所有管理されるインターネットネイティブなビジネス
  • グループの承認なしでは誰もアクセスする権力をもっていないビルトインされたトレジャリーがある
  • 組織内全員の参加権を保証するための提案と投票によって意思決定が統治される
  • 気まぐれで支出を許可するCEOも、CFOが帳簿を不正操作する機会もない
  • すべてがオープンで、支出に関するルールはコードを通してDAOに組み込まれている

DAOメンバーへの評価と報酬は中央集権と感覚ではなく、自律分散的なコードによって決まる。

「計算処理速度」のように明確な指標でマイナーを評価することが可能なBitcoinのような仕組みであればDAOはワークしやすいのかもしれない。

一方、企業をまるごとDAO化するといった場合、DAOメンバーが行う作業が多岐にわたり、DAOへの貢献をシンプルな尺度で計測・評価することが難しく、報酬の付与を自律分散化させることが凄いむずそう。

DAOと言いつつも、結局給与がトークンに変わっただけの中央管理的な業務委託組織になりがちなのかもしれない。

そう考えるとソーシャルメディアのようなUGCによって構成されるメディア形態はDAOに適しているのかもしれない。メディアへの貢献尺度も「滞在時間」や「新規ユーザー獲得」などシグナルを計測しやすい。

例えばInstagramの初期から価値を作ってきたコンテンツクリエイターはプラットフォームからレベニューをシェアされることもなく、無料でコンテンツを納品し対価として「いいね」をもらってきただけだった。リアルな世界でいうと拍手をもらうためだけに絵を提供しつづけるアーティストに等しいだろう。プラットフォームが利益を独占するためクリエイターは収益化が難しく、「インフルエンサーマーケティング」の収益モデルが発達した。

しかしもしInstagramがDAOだったらどうだろう?

Instagramのメディアの価値が皆無に等しかったときに良質な写真を投稿し、新規のユーザーを集め、滞在時間を伸ばしたクリエイターには独自のトークンが付与され、Instagramのメディア価値が高まるにつれトークン価値も高まり、クリエイターの貢献は報酬によって報われることになる。

実際にForefrontはDAOコミュニティによって運営されるメディアで、コンテンツのキュレーションをすることでトークンを得られる。

Forefront is the premier social token community, crafting resources and spaces to help tokenized communities thrive.

We are forging the port-of-entry to social clubs and digital cities that will onboard the next wave of Web3 alchemists and world-builders.

現在ではPlay2Earnモデル(ゲームをプレイするとトークンをもらえる)のAXIE INFINITYのようなゲームやMove2Earn(走るとトークンをもらえる)STEPNのようなサービスも存在する。ユーザーは戦闘するキャラクターやランニング用のスニーカーNFTを購入してプレイすることでサービス全体の価値をネットワーク効果で高めることに貢献することで独自のトークンを得ることができる。

Axie
Axie
STEPNのスニーカーマーケットプレイス
STEPNのスニーカーマーケットプレイス

これらのサービスはそれぞれが独自のマーケットプレイスを持っていて、ユーザー間の完全な経済圏があることも特徴だ。

話はそれるが、Play2Earnゲームの初期アセットをレンタルしてくれるYGGやGUILDFIといったゲームギルドも生まれている。

また、SNSの「Remix文化」とWeb3.0の「コンポーザビリティ」の概念が交わることでコンテンツクリエイターやリミクサー、キュレーターが正当な対価を得られる可能性がある。

コンポーザビリティとは「構成可能性」のことで、誰もが自由にお互いの要素を利用して、既存コンポーネントの上に新たな要素を構築することが可能なオープンソースの考え方。誰もが利用可能ということは自分のアイディアが盗用されるということかと思うかもしれないが、ブロックチェーン上ですべてのアクティビティ履歴が改ざんされない形で記録され公開されていれば、誰が誰のコンポーネントの上に成り立っているのか検証可能だ。

例えば現在だと誰かの有料noteの中で自分の記事が引用されていたとしても、引用元のライターはnote収益の一部を受け取ることはできない。しかし引用元記事のライターと引用者、さらに引用記事の引用者をチェーンのように関連付ければ、引用コンテンツによって発生したレベニューを、そのコンテンツの価値に貢献している引用元記事のライターにもスプリットすることができるようになる。これはTikTokのデュエットやスティッチのようなリミックス機能においても同じことが言えるだろう。

引用されるような価値のあるコンテンツを作ることが正当に評価され、適正な報酬につながる世界だ。

現に今この記事を書いてるmirror.xyzには「Splits」という機能があり、記事のコラボレータやインスパイアされた人々、記事によって寄付したい人などのEthereumアドレスを登録し、好きな比率で記事による収益を自動分配することができる。

Splits

Splits on Mirror are a way to automatically share the value you produce with multiple entities. A split is a payable smart contract that routes value to multiple addresses on Ethereum.

Splits can be used as a way to reward your collaborators, the people that have inspired you, or to donate proceeds from your work.

Create a split by going to the Splits tab in your dashboard. A split needs to be made between at least two addresses and the percentages must add up to 100%.

また、リツイート的な感じの “mirror機能” があり、リミックスコンテンツによる収益を分配できるよう。

このようにWeb3.0化によって、ソーシャルメディアプラットフォームの価値を高めるUGCクリエイターが報われる構造になる可能性がある。

現在のソーシャルメディアマーケティングにおいて

  • ブランドについてオーガニックに発生したUGCが「アーンドメディア」
  • 金銭的インセンティブによって投稿してもらうUGCが「ペイドメディア」

のように切り分けて語られることが多いが、DAO化されたソーシャルメディアにおいてはすべての投稿に対して、投稿の価値に応じてグラデーション的にトークン報酬が付与される可能性があり、「オーガニックなUGC」「金銭的インセンティブによって発生したUGC」のように綺麗に切り分けられるものではなくなるのかもしれない。

プラットフォームによるコンテンツ検閲を防ぐ

2021年1月、元アメリカ大統領ドナルド・トランプ氏はTwitterなど主要ソーシャルメディアのアカウントを軒並み永久的に削除された。

トランプ氏の言動の成否は置いておいて、このときに改めて認識させられたのは、民主的に選ばれたわけではないプラットフォームの一部の人々の判断でユーザーのコンテンツを検閲し社会的に抹殺することができるということである。

こういったデジタル権威主義とも言えるビッグプラットフォームによるセンサーシップへの反抗勢力がSolcialのようなWeb3.0時代のソーシャルネットワークである。

Solcial is a decentralised social network on the Solana blockchain. Solcial allows anyone to share content in a fully permissionless way, avoiding censorship, and rewarding users and content creators in a fair manner. A truly open crypto platform for social networking and monetisation.

SolcialはSolanaブロックチェーン上の分散型ソーシャルネットワークである。Solcialは誰もが完全にパーミッションレスな方法でコンテンツをシェアし、検閲を防ぎ、フェアな形でコンテンツクリエイターとユーザーに報いることを可能にする。ソーシャル・ネットワーキングとマネタイゼーションのために真にオープンなクリプトプラットフォーム。

Solcialはまだ開発段階だけど、リリースされるのが楽しみ。

おもしろかった本

村井純先生の「インターネットの基礎」はインターネット黎明期の激動感とオープンプロトコルの美学がわかっておもしろかった。

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