レトロアクティブ・パブリックグッズ・ファンディング

2022年5月、EthereumのスケーリングソリューションであるOptimismがネイティブトークンOPトークンをエアドロップしました。このOPトークンは、過去のOptimismユーザーだけではなく、DAOへの投票者やGitcoin Grantへ寄付を行った者などにも割り当てられました。その他にも、OptimismのガバナンスはSoulbound-NFT(譲渡不可能なNFT)を用いるといった注目すべき仕組みが組み込まれており、このような仕組みはRollupはよりプロトコルレイヤーに近い基幹レイヤーに相当するため、DAppのガバナンスと異なり、より堅固で持続的で公平なガバナンスが求められるための設計になっていると考え、個人的にも興味を唆る内容です。

Optimismでは、シークエンサーが生み出した収益が「レトロアクティブ・パブリックグッズ・ファンディング」へ流れることになっています。

https://community.optimism.io/docs/governance/economics/#revenue-is-distributed-to-public-goods
https://community.optimism.io/docs/governance/economics/#revenue-is-distributed-to-public-goods

今回は、OPトークンのトークン設計に組み込まれている「レトロアクティブ・パブリックグッズ・ファンディング」とは、どのようなコンセプトなのかを記している記事を翻訳することにしました。非排除性かつ非競合性の性質を持つ公共財、例えばオープンソースソフトウェアのようなプロジェクトは、資金調達が困難な状況です。この課題の解決策としてレトロアクティブ・パブリックグッズ・ファンディングが考えられており、Optimismは新たにローンチしたOPトークンをユーザーへのインセンティブやガバナンス権限の分散だけではなく、公共財への支援にも活用されている設計になっています。公共財への長期的かつ持続的なファンディングについて考える機会となれば幸いです。

この記事は、Optimismチームによる投稿を許可を得た上で日本語に翻訳したものです。Optimismチームに感謝申し上げます。

This article is an official Japanese translation of a post by the Optimism team. Thank you so much, the Optimism team.

元記事(2021年7月20日):https://medium.com/ethereum-optimism/retroactive-public-goods-funding-33c9b7d00f0c

以下、翻訳です。

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注:Optimismチームは、公共財に持続的に資金を供給する方法についての解決策を長い間探し求めてきましたが、Vitalik Buterinの素晴らしいデザインのおかげで、私たちの最初の実験の仕組みができました。この投稿は、セクション2のゲスト執筆者としてVitalikとの共同作業です。

ビジネスモデルのない野心的なプロジェクトを立ち上げるのは、非常に大変なことです。資金を調達し、優秀な人材を採用し、素晴らしいものを作り上げるための苦難や障害を乗り越えることは困難です。

スタートアップは、たとえ潤沢な投資資金があっても難しい挑戦であることは有名で、大多数が失敗しています。しかし、スタートアップには、Exitの可能性という重要な利点があります。エクイティ、つまりExitにおける株式を通じて、先行投資、雇用、モチベーション、アライメントなどのインセンティブをExitが生み出します。しかし、非営利団体、FOSS、公共財プロジェクトには、「トンネルの終わりの光」は存在しません。

このことを考えると、多くの優秀なイケている開発者たちが、純粋に最大限の善を行いたいと考えている人たちでさえ、たとえミッションに対して妥協することになったとしても、営利の道を歩むことになるのは驚くべきことではありません。多くの人にとって、それは単に富のためではなく、公平のためです。自分には何のメリットもないのに、他人が莫大な利益を得るようなフリーソフトを苦労して作る必要があるでしょうか?

では、もし突然、公共財プロジェクトにExitが存在するとしたら、何が起きるでしょうか?四半期ごとの利益ではなく、そのプロジェクトによってどれだけの公共財が生み出されたかによって決まるExitです。コミュニティの利益を最大化する技術への投資やイノベーションがもっと活発になるのでしょうか?より多くのNPOが生き残るのではなく、繁栄することができるでしょうか?

私たちは、これらの目的を達成するための仕組みを提案します。私たちは、プロトコルで生成された収益、レトロアクティブな公共財の資金、そしてResults Oracleを用いて、公共財プロジェクトのためにスタートアップスタイルの資金サイクルを作り上げます。**私たちOptimismチームは、(シーケンサーを分散化する前に)シーケンサーで得た利益をすべて、最初の公共財のExitを含む公共財の資金調達の実験に提供することを約束します。**与えることができる利益はまだなく、詳細は開発中ですが、今このコミットメントを行い、最初の実験の基盤となるアイデアを共有できることに興奮しています!

レトロアクティブ・パブリックグッズ・ファンディングDAOのしくみ

Vitalik Buterin

レトロアクティブ・パブリックグッズ・ファンディングのコンセプトの背後にある核となる原理は単純です。つまり、**何が将来に役に立つかよりも、過去に何が役に立ったかについて合意する方が簡単です。**前者はまだしばしば不一致の原因ですが、既存の投票メカニズム(例えば、クアドラティック・ボーティングや通常の投票)を使うことで、合理的に良いトップレベルの判断を得ることができるタイプの不一致です。後者はもっと難しいです。営利企業にとって、私たちができる最善のことは、人々がスタートアップを作り、それに投資し、最終的にそれが正しければ、報酬を得ることができるようなエコシステムを構築することです。そこで、完全に車輪の再発明をするのではなく、まったく同じ仕組みの公共財指向バージョンを作ることにします。

「Results Oracle」と呼ばれるDAOが、公共財プロジェクトに資金を提供します。長期的には、Results Oracleはプロトコル料金によって資金を調達することができます(例えば、L2プロジェクトによって実装される場合、シーケンサーオークションが候補となります)。しかし、他の公共財に資金を提供するDAOとは異なり、Results Oracleはレトロアクティブにプロジェクトに対して資金を提供し、すでに価値を提供したと見なされたプロジェクトに報酬を与えます。

このオラクルの設計は、非常に複雑な問題であり(コイン投票のような単純なアプローチでは長時間かかること知られています)、繰り返しアプローチするのが最善です。単純な初期バージョンは、このスキームを実装しているエコシステムから技術的に熟練した長年の貢献者を20〜50人厳選したものです。このスキームは、分散型ガバナンスの理解が深まるにつれて、そこから時間をかけて改善することができます。

Results Oracleは、任意のアドレスに報酬を送ることができます。どのようなアドレスに報酬を送ることができるのか、考えられるアイデアをいくつか挙げてみましょう。

  • プロジェクトを実現するために主に責任を負う個人または組織
  • プロジェクトに時間および/または資金を提供した複数の個人および/または組織間で資金を分割する固定配分表を表すスマートコントラクト
  • プロジェクトに時間および/または資金を提供した1人または複数の個人および/または組織の間で供給が分配されるが、取引可能なプロジェクト・トークン

1つ目と2つ目のケースでは、Results Oracleは受取人に資金を送ります。これらは両方とも、アロケーションテーブル、つまり、資金を受け取り、特定の分割に従って直ちに受取人に再分配するコントラクトとして実装されます。

プロジェクト・トークンはもっと急進的なアイデアで、基本的に**Results Oracleが何に資金を提供するかという予測市場を作るものです。**Results Oracleは、その資金を使ってトークンの下限価格を設定することができます。Xドルの報酬を割り当て、プロジェクトにN個のトークンがある場合、トークンあたりX/Nドルの価格で、これらのトークンの総供給を購入するオープンオーダーを公開します。

価格の下限を設定して資金を供給する(1回限りの清算とは異なります)ことで、オラクルが同じプロジェクトに何度も報酬を与えることができるようになります。また、プロジェクトトークンがResults Oracleと他のソース(例えば、他のグラントメカニズム、NFTのようなコレクティブルな価値、後で取得する場合はプロジェクト自身の経済モデル)の両方から報酬を得ることができるようになります。複数の報酬を得るには、既存の注文から資金を引き出したり、組み合わせた資金を用いたより高い価格帯を設定した新しい注文を行ったりすることによって可能となります。

価格推移の例
価格推移の例

誰でもアロケーションテーブルやプロジェクトトークンを作成できるため、プロジェクト内の貢献度について意見が対立し、同じプロジェクトに対して複数のアロケーションテーブル (またはプロジェクトトークン) が競合してしまう可能性があります。その場合、Results Oracleはどのプロジェクトに価値があるかだけではなく、どのプロジェクト・トークンやアロケーションテーブルが(あるいは複数のトークンやテーブルをどのように分割して)誰が貢献したかをより適切な指標であるかを決めなければなりません。この種の判断は完全に避けることはできませんが、願わくば、例外的な場合にのみ必要であるべきです。

ありがとうございます、Vitalik!

シードファンディング

私たちが上記で提案していることは、多層的なエコシステムであり、新しいエコシステムをゼロから素早く構築するのは難しいものです!エコシステムがスタートするのに役立つために、様々な参加者が取ることのできる戦略がいくつかあります。

  • プロジェクトや財団によるグラントプログラム
  • プロジェクトがUniswapで公共財トークンを販売する
  • クアドラティック・ファンディング

結論

非営利モデルは、すでに構築されたコードベースを維持するためにはうまくいくかもしれませんが、プロジェクトを立ち上げる初期段階は非常に困難です。スタートアップの大多数はいかなるExitもされませんが、FOSSプロジェクトではさらに困難です。多くの場合、非常に献身的な少人数のグループによるゆっくりと進行する愛の労働です。寄付は、チームが軌道に乗るまでの時間を計算できるほど安定した資金源ではありません。グラントは、競争力のある給与を提供するのに十分ではありません。「正しい理由」のためにどこかで働いても、お金になりません。

このようなヒーローの利他主義には美しさがありますが、彼らが作ったものの熱心なユーザーとして、私たちも彼らに報酬を与えるべきではないでしょうか。

OSSプロジェクトにExitを与えることで、実は資金源が生まれる動機付けにもなっているのです。Exitから逆算すると、オープンソースプロジェクトは利益を生むことができるのです!

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