2022年2月9日にa16zが公開した「A Guide to DeSci, the Latest Web3 Movement」というタイトルの記事をきっかけに、Decentralized Science(DeSci:分散型サイエンス)という新しいサイエンス領域におけるムーブメントが注目されています。
具体的には、DeSciはスマートコントラクトやトークンなどのブロックチェーンツールを活用することで、これまで仲介業者が握っていた所有権を解放し、資金調達の方法を一新するという、バイオテクノロジー領域を中心に焦点が当てられている新しいサイエンスの在り方のことを指します。
DeSciはショートタームではなく、数十年単位というロングタームで科学の未来を変えていく、Web3の領域において最もインパクトの大きい分野だと翻訳筆者は考えています。DeSciはまだ黎明期であるため、情報が分散していますが、今回ご紹介させていただく記事はよく情報がまとまっており、これからDeSciの世界を覗いてみようとしている人々にとっての入門書のような役割を果たせるのではないかと思い、今回選定させていただきました。
この記事では、BowTiedBiotechの記事を許可を得た上で日本語に翻訳したものです。BowTiedBiotechに感謝申し上げます。
この記事は、BowTiedBiotechによる投稿の公式日本語訳です。BowTiedBiotech、どうもありがとうございました。
元記事(2022年4月24日):https://bowtiedbiotech.substack.com/p/epoch-16-decentralized-science-desci
以下、翻訳です。
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バイオテクノロジーの資金調達とガバナンスのための未来のビジネスモデルを開拓する
こんにちは。今週もバイオテックの分析の時間にようこそ。 今週のニュースレターでは、Decentralized Science(分散型金融を意味するDeFiの頭文字をとってDeSciとも呼ばれる)という新しい分野についてお話しします。
DeSciとは、簡単に言うと2つのコンセプトから構成され、これを知ることで今日からその探索を始めることができます。 1つ目は、ブロックチェーン技術を使った全く新しいバイオテクノロジーのファイナンス方法であることです。 2つ目は、クリプトの世界からガバナンスとマネジメントのアイデアを取り入れることによって、分散型ガバナンスの体制をバイオテクノロジーに適用するということです。具体的には、自律分散型組織(DAO)と呼ばれる新しい企業やマネジメントの構造を実装することを指しています。
これら専門用語の多くは、科学者にとっては異質なものと感じるでしょう。今回私たちは、今後5年から10年の間に、バイオビジネスの運営体制と資金調達の方法に革命を起こすであろうDeSciについて紹介させていただきますので、お付き合いください。 隔週でお届けしているニュースレターをお楽しみいただいている方は、ぜひサブスクライブしていただき、シェアボタンを押して、この活動を広めてください。
BowTiedBiotech substackの目的は2つあります。まず第一に、科学者がバイオテクノロジー企業を設立し、最終的にそのアイデアを患者のための医薬品に変換するためのツールを提供することを目的としています。 次に、バイオテクノロジー投資家に向けて公開市場および非公開市場の最新情報を毎週提供し、現在の資金調達情報の教材として大いに活用していただくことで、このsubstackを役立てていただきたいと考えています。
今週は盛りだくさんの内容です。
分散型サイエンスとは何か?
分散型サイエンスの意味を理解する前に、まず分散型という概念をよく理解しておくことが重要です。 実はとても単純なことで、分散化とは中央集権化の反対の意味を指します。 中央集権とは、私たちが知っているほとんどの組織が発展してきたモデルであり、簡単に言えば、意思決定をコントロールする中核となるグループが存在することを意味します。
インターネットの普及により、私たちは過去20年の間に分散化への移行を目の当たりにし、(おそらく気づいていないうちに)実際に何兆ドルもの市場価値を解き放ちました。 この点を明らかにするために、いくつかの業界を検証してみましょう。
インターネットが普及する以前は、「商品取引」は主に小売店主が在庫や棚の配置などを決定するという中央集権的なプロセスがありました。 インターネットに接続できる環境であれば、誰でもオンラインストアを開設することができ、大きな市場において機会を得ることができます。
次に、メディア企業です。 従来は、一握りのテレビ、ラジオ、新聞、雑誌が、発言権を完全に管理していました。 しかし、Facebook、YouTube、Twitterなど、マイクとウェブカメラさえあれば、誰でも自分のメディアを作ることができるようになりました。 その結果、何兆円もの市場規模を再び手に入れることができるようになったのです。 近年、 同様にこの傾向は不動産(AirBNB)、交通(Uber)、金融(分散型金融)、芸術(NFT)でも見られています。
まだ分散化の試みがバイオテクノロジー産業に適用され始めたばかりです。 以下では、具体的に分散化がどのような問題の解決に使えるのか、また分散化と中央集権化の長所と短所を詳しく探っていきます。
この記事は、分散型バイオテクノロジー(Decentralized Science、通称:DeSci)のコンセプトに関する優れた記事なので、読者の皆様にはぜひご覧いただきたく思います。
A16z分散型バイオテクノロジーのガイド
また、Molecule DAOのスレッドも日々進歩しているDeSci分野を知るためのサマリーとしてよく読むことをお勧めします。
分散型サイエンスはどのような問題を解決するのでしょうか?
私たちの見解では、DeSciはバイオテクノロジーに関わる人々の2つの大きな問題、すなわち資金調達とマネジメントに関する問題を解決します。
資金調達は決して簡単なプロセスではありません。 現在のシステムは非常に中央集権的で、専門投資家のネットワークによって大きくコントロールされています。 これは政府からの資金に対しても同様であり、中央集権的である事に加えて、小規模な資金を得るためにも必要書類の作成に時間がかかります。 DeSci組織は、ブロックチェーンやクリプトに基づいた資金調達方法を介してトレジャリーとなる資金を調達し、分散型ガバナンスによって迅速に資本を活用することができます。
DeSciが改善することができる2つ目の問題は「マネジメント」についてです。 バイオテクノロジーの大部分は、私たちがビジネススクールの組織科学の授業で学んだ伝統的な企業体制の中で管理されています。そのバイオテクノロジーの管理体制は階層的で、権限はトップ層に集中します。 これにより専門的な意思決定と迅速なガバナンスを可能にしますが、多くの場合、「専門的な意思決定」は、グループの集合的な専門知識を黙らせる(あるいはよく活用されない)という犠牲を払って行われます。 何層ものガバナンスがすぐに常態化し、意思決定も遅くなります。
DeSciや、特にDAOの組織構造(次のセクションで説明します)は、すべての人が貢献することが奨励されており、最高のアイデアが一番となるようなフラットな組織を構築することによって、これらの問題を解決します。
注:資金調達について現在、DeSciは多額の資金を調達することはできていません。 私たちは、バイオテクノロジーのVCファンドは、適切にリスクを分散するために最低1億ドルが必要だと考えています。 このようなDeSciの状況とは対照的に、VitaDAOは当初500万ドルに及ぶ時価総額で立ち上がりました(ただし、最近の時価総額は3,000万ドルまで上昇している)。 しかし、現在の資金調達状況から考えると、現在のDeSciの最も合理的な投資対象は、アカデミアとベンチャーバイオテクノロジー企業との間であり、いわゆる死の谷の部分となります。つまり、平均のバリュエーションが10万ドルから100万ドルの範囲であり、投資可能である部分は1000万ドルまでの範囲となっています。 今後5年から10年の間に、DeSciはより大きな資本にアクセスできるようになり、従来のベンチャーキャピタルモデルや、いつの日か公開市場と競合する可能性もあると予想しています...
具体的に、DeSciはどのように機能するのですか?
多くの場合、DeSciの組織は分散型自律組織(DAO)として構成されています。 DAOとは何でしょうか? 基本的には、中央集権的であるリーダーがいない、メンバー所有のコミュニティであり、多くの場合において金融取引とガバナンスの記録をブロックチェーン上に保持しています。
Vincent Weisserのサイトからの以下の引用は、DAOの利点をうまく捉えています。
バイオテクノロジーDAOは、バイオテクノロジー分野における共同研究を組織化し、インセンティブを与える新しい方法である。コラボレーション、人材、資本配分を最適化する新しい方法を可能にすることで、Eroomの法則(創薬は時間とともに遅くなり、より高価になる)を打ち破る可能性を秘めています。
従来の組織は透明性が低く、一部の人しか財源にアクセスできなかったことから、組織内のすべてのものとすべての人々に影響を与える重要な決定に対して発言することができませんでした。DAOの構成は、この制約を排除すると同時に階層をなくすことで、意思決定プロセスに真の民主主義を導入することを目的としています。
実際には以下のように行われます。DAOに参加したい人は、通常、公開市場でガバナンストークンを購入します。 各ガバナンストークンは、DAOのガバナンスにおいて1票の投票権に相当し、これを所有者に与えます。 DAOのどのメンバーも、様々なタイプのガバナンス提案を自由に行うことができます。 各DAOは、提案が承認される方法については異なる審査方法を採用しています。 一般的に、提案の影響を測定するための事前審査プロセスがあり、次に専門家によって審査され、最後にオンチェーンDAOの投票が提案を正式に決定するといった流れです。
最後に、ほとんどのDAOは内部にあるいくつかの組織から構成されています。通常、財務、マーケティング、R&D、法務など、一般的な企業構造を反映したワーキンググループで構成されています。一般的な企業構造との違いは、誰でも自由に参加できることです。通常、各ワーキング・グループには、しっかりとプロジェクト管理をする選出されたリーダーがいます。
a16zの次の記事は、DeSciとBiotechの背景を読んで知るために良い記事です。
DeSciはどのように実施されているのですか?
ブロックチェーン革命のシードフェーズからこのDeSci産業が生まれるのを見ることができるのは、なんと魅力的な時間でしょうか。 DeSciの動きはまだ十分に小さいため、DeSciの取り組みの大部分はシンプルなカオスマップで表すことができます(参照:Dr. Jocelynn Pearl)。 DeSciは以下の分野に分けることができます。サイエンスDAO、分散型サイエンスの資金調達、 分散型バイオテクノロジー、科学出版、財団・研究所です。
サイエンスDAOは、私たちが最も関心を寄せているものです。 これは、基本的に特定の問題を解決するために設立された企業のようなものです。 VitaDAOはこの分野におけるパイオニアです。 長寿研究に焦点を当てるために設立されたDAOは、2021年にVITAガバナンストークンのローンチでキックオフしました。 現在、コミュニティには数千人のメンバーがおり、サイエンス(ディールソーシング等)、オペレーション、トークノミクス、テック、ガバナンスに焦点を当てたワーキンググループで構成されています。 VitaDAOはすでに、学術的なコラボレーションの部分から、老化や長寿に焦点を当てたバイオテクノロジー企業へのエクイティファイナンスまで、一握りではありますがこれまでプロジェクトに資金を提供しています。VitaDAOの詳細については、こちらをご覧ください。
それぞれの詳細な説明は、こちらでご覧いただけます。
もう一つ例は、ピアレビュー/科学出版プロセスの改善に向けたDeSciの適用についてです。(下記参照)
おわりに
今週は、新しい分野である分散型サイエンスについて紹介しました。 多くの新しい概念や用語が紹介されたので、読者の中には懐疑的であったり、まだ詳細が不明であったりする人もいると思います。 この新興産業はまだ日が浅く、私たちは単に新しい分野を紹介し、認識を高めることが目的であったため、それで良いのです。 ご質問はコメントでお寄せください。 そして、私たちが取り上げたDAOのどれかに参加することをお勧めします。もっと知るための最もよい方法は、ただ飛び込んでみて、コミュニティに参加することです。
私たちが取り上げたトピックについてさらに深く知りたい方は、私たちのウェブサイトBowTiedBiotech.comをチェックしてください。 私たちは、会社設立に関するさまざまなコンサルティングサービスを提供しています(現在、お得な価格で提供しています)。 詳しくは、FAQをご覧ください。
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