NFTの利用価値を向上させるために必要なことについて、思うところを書きます。
NFTには(1)交換価値、(2)利用価値の2つの価値があります。NFTが真価を発揮するには、(1)に加えて(2)利用価値を向上するために、NFTの製作者と利用者とがその価値を十分に享受できるための社会的な合意形成、制度の整備、技術的手段の構築が必要だろうと考えます。
そのために必要な論点として(1)ライセンス、(2)ロイヤリティについて検討します。
先日、自民党デジタル社会推進本部 NFT政策検討PTから「NFTホワイトペーパー(案) ~ Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略 ~」(以下、「ホワイトペーパー(案)」)が発表されました。我が国が、Web3におけるポジションを確立するためにNFTを中心として解決するべき課題について包括的に提言がまとめられています。また、先進的なトピックに踏み込んでおり、非常に面白い内容だと感じました。
そこでは様々な論点について論じられているのですが、その中でも、この記事ではNFTの利用に関する論点に着目して考えを述べてみたいと思います。
「ホワイトペーパー(案)」はp.17で「利用者保護に必要な施策」と題する章を設け、そこではこのような課題認識と提言について言及しています。
(1)取引内容の明確化に向けた取組
ア.問題の所在
NFTの中には、その保有者にコンテンツやサービスを一定の範囲で利用する権利や地位を与える設計となっているものが多く存在するが、その内容は千差万別であり、一般消費者にとって当然にわかりやすい形となっているとは言い難い。当該内容は、NFT自体のメタデータ(付帯情報)中に記載 したり、発行者が自身のウェブサイト上で公表したりするなど、様々な方法で説明されるが、統一された方法はない。また、そもそも保有者に何らの権利や地位も伴わず、単に保有し譲渡可能であるといった以上の意味を持たないNFTも存在する。
イ.提言
対応策としては、NFTに付帯する権利や地位の内容について一定の類型化を試みた上で、その内容をわかりやすく表記し示す標準的な方法を定める ことが考えられる。
この点が、NFTがその真価を発揮するのに必要となる「利用価値」という点に関して重要だと感じます。どういうことでしょうか。
NFT(より正確には、ERC-721が規定する仕様としてのNFT)は、「ソフトウェアエンジニアなら3秒で理解できる NFT 入門 - Okapies' Archive」というエントリが簡潔に整理して示す通り、技術的にはブロックチェーン上のハッシュマップのような、シンプルなデジタルデータに過ぎません。それが、昨今喧伝されているような価値を持ち得るかどうかは、技術的な可能性に加えて、社会的な合意形成や制度の整備に依存するところが大きいでしょう。
NFTは、クリエイターがデジタルコンテンツに対する権利を担保しつつ、適切な対価を得られる形で頒布する方法として大きな可能性を秘めるものであると思います。一方で、いまのところは、マーケットプレイス等の市場における一次流通・二次流通による効果を期待する面が大きいと思います。そのような意味における価値を、ここでは「交換価値」と呼びます。
一方で、NFTの購入者にとって何がうれしいのかということについても、もっと考える必要があるのではないかと思います。ここではそれを「利用価値」と呼びます。この点について、たとえば、あるNFTを所持している人々だけがアクセスできるコミュニティを運営するといったことは、現時点でのNFTの利用価値を提供する取り組みとしてよく知られたことでしょう。
この辺りについては私の所属する会社のブログで「なぜGMOペパボがWeb3への取り組みを始めるのか - ペパボテックブログ」という記事に、簡単に書きました。技術的にはシンプル極まりないデータに過ぎないNFTが、昨今期待されているような形で真価を発揮するには、ここでいう「交換価値」のみならず、購入者にとって何が嬉しいのかという「利用価値」の実現も重要なのではないでしょうか。
さて、利用価値が大事なのだとして、それを向上するにはどうしたらいいのでしょうか。そのためには、ライセンスとロイヤリティの2つについての社会的な合意形成、制度の整備、技術的手段の構築が必要だろうと考えます。
利用価値といった場合、前述したような「会員証」的な価値や、あるいはブロックチェーンドメインのような形での価値が認められているところです。一方で、NFTコンテンツに限らず、一般にコンテンツの利用価値としては、たとえば二次利用という点における利用価値も考えられるだろうと思います。
NFTを購入したからといって、そのNFTに紐づくコンテンツの著作権が購入者に譲渡されるというわけではありません。著作権についての取り扱いがどうなるかは、プラットフォームにおける利用規約や、より根本的には、NFTの製作者と購入者との間の利用許諾の取り決めに依存することになるでしょう。
一方で、二次利用といっても、その形態は様々でしょう。コピーしたものを自分のサイトに掲載する分にはいいとか、あるいは自分の作品に組み込んでもいいとか、さらには商用利用もOKであるとか。そのように様々であると、著作権者と利用者(ここではNFTの製作者と購入者)の間での利用許諾の取り決めが煩雑になってしまいます。
そこで、利用許諾を類型化して表示可能にした「クリエイティブ・コモンズ・ライセンス」(以下、CCライセンス)が使えるのではないでしょうか。NFTに紐づくコンテンツについても、たとえばNFTの仕様を拡張する形でCCライセンスを表示するという形で、利用許諾をわかりやすく類型化された形で表示することも可能でしょう。NFTにおいてこそ、CCライセンスの威力は発揮されるのではないかと思います。
CCライセンスによる利用許諾の明示について述べましたが、コンテンツの製作者からすると、それだけでは物足りないというのもまた事実だろうと思います。なぜなら、二次利用について正当性がブロックチェーン上で明示されたところで、二次利用に対する適正な対価の受け取りについては放って置かれたままになってしまうからです。
現行のNFTマーケットプレイスでは、NFTの二次流通によって発生した収益から、大元の製作者に対してロイヤリティという形であらかじめ定められた割合で対価が支払われる仕組みが提供されています。一方で、それらはあくまでもプラットフォームにおける機能であって、NFTそのものの機能ではありません。
そこで、冒頭の「ホワイトペーパー(案)」でも紹介されているEIP-2571: Creators’ Royalty Token standardやEIP-2981: NFT Royalty Standardという仕様提案の出番です。これらは、プラットフォームの機能としてではなく、NFTの仕様そのものにロイヤリティの仕組みを組み込むことで、透明性のある形でロイヤリティを実現しようというものです。
一方で、この記事で問題にしたいのは流通に基づく「交換価値」ではなく、二次利用についての「利用価値」なのでした。ですので、二次流通した際のロイヤリティではなく、二次利用をした際のロイヤリティについて検討したいのです。
EIP-2571: Creators’ Royalty Token standardでは、以下の図に示される形で、二次流通に関するロイヤリティをNFTの製作に関係する当事者へ支払う構成をとっています。
ここで問題になるのは、二次流通と異なり、二次利用に関してはその形態が様々であるということです。そのため、様々な利用形態に応じてロイヤリティを設定することを可能とする必要が、仕様を策定する上で必要になってくるでしょう。そこで、上述したCCライセンスがここで活用できるのではないかと思います。
二次利用の形態が様々であるという問題については、全てをリストアップすることは難しいですので(それこそ詳細かつ個別の契約書が必要になってしまう)、CCライセンスの提供する類型に賛同できるならば利用可能になるという前提を置くことで解決できるでしょう。そして、適用したいCCライセンスに応じてロイヤリティの料率を設定するのです。たとえば、CC BY-NC 4.0の範囲でなら無料で使っていいが、CC BY 4.0に基づき商用利用するのであれば10%のロイヤリティを支払ってほしい、という意思表示が可能な仕様を策定できるでしょう。
技術的にはシンプルなデジタルデータに過ぎないNFTが真価を発揮するには、利用価値を高める必要があるのではないかというのがそもそもの着眼点なのでした。そのためには、二次利用という利用価値について、その実現の障害となり得る(1)ライセンス、(2)ロイヤリティに関する課題を、できるだけ透明性を担保する形で実現する必要があります。その点について、既存の取り組みを参考に素描的に述べてみました。
過不足や理解の誤り、すでにこういう取り組みがあるよ等の情報があれば、ぜひフィードバックをお願いします。