今年になってから国内外で「DAO」という言葉を耳にする機会が増え、様々なDAOが生まれています。SNS上の一部では、「これはDAOなのか?」や「そもそもDAOとは?」という投稿も見られています。今回は、このような錯綜した状況に対して、DAOについての初心者向けの手引きがあるのが良いと考え、この記事の翻訳をすることになりました。実際のDAOの例を参照したり、将来のユースケースや潜在的な問題まで含めたり、包括的にDAOについての説明がなされている内容になっています。
この記事は、Linda Xie氏によるMirrorへの投稿を許可を得た上で日本語に翻訳したものです。Linda Xie氏に感謝申し上げます。
This article is an official Japanese translation of a Mirror post by Linda Xie. Thank you so much, Linda Xie.
元の記事(2021年3月13日投稿):
DAO(Decentralized Autonomous Organization、自律分散型組織)とは、ブロックチェーン上で実行されるルールを共有し調整を行うミッションを中心に組織されたグループのことです。
DAOの主な利点の1つは、DAOにおけるすべての行動と資金調達が誰にでも検証可能であるため、従来型の企業の仕組みよりも透明性が高いことです。これにより、汚職や検閲のリスクが大幅に軽減されます。上場企業は独立した監査を受けた財務諸表を提出しなければなりませんが、株主はある時点での瞬間でしか組織の財務状況を見ることができません。対してDAOの貸借対照表はパブリックブロックチェーン上に存在するため、全ての取引に至るまで、常に完全に透明性が保たれています。
DAOは一般的に従来型の企業よりも、グローバルにアクセスすることが可能で参入障壁が低いです。この透明性と参入障壁の低さを考えると、ルールや行動に同意しないDAOメンバーのスイッチングコストは低くなりそうです(DAOからDAOに移動するハードルは高くない)。同じようなミッションを持つDAOは、メンバーを獲得するために競争する必要があるかもしれませんが、トップメンバーを集めることができるように、可能な限り透明性を高め、グループからあまり多くのコストを使わせないようにするインセンティブがあります。また、メンバーのニーズを満たすために、DAOは迅速に進化する必要があるかもしれません。
この記事の目的は、クリプト分野におけるDAOを詳細に説明することではありませんが、DAOとは何か、なぜそれが面白いのか、そしていくつかのポテンシャルのある事例を紹介することです。
これまで悪い意味でも最も有名なDAOは、2016年4月に分散型ベンチャーキャピタルファンドとして立ち上げられたThe DAOでしょう。(The DAOにおいて)メンバーはETHを拠出し、見返りにDAOトークンを受け取り、そのトークンは資金をどのプロジェクトに配分するかの投票に使用することができました。(結果的に)ETHで1億5000万ドルを調達しましたが、後にハッキングされ6000万ドルが盗まれました。興味深いのはDAOが消滅しても、パブリック・ブロックチェーン上にあるため、発生したすべての取引を誰でも見ることができ、この記録が消えることはないという点です。残念ながら、The DAOのハッキングは一時的に多くの人に『DAO』という言葉に対するネガティブな印象や懐疑心を与えましたが、DAOは非常に強力な組織形態であり、再びクリプト分野においてDAOの活動が見られるようになりました。
クリプトプロジェクト自体も、中央集権的なチームが単独で(方針などを)決定するのではなく、トークン保有者がプロジェクトの方向性や様々なパラメータ設定に投票できるような分散型のガバナンスで管理されている場合、それをDAOとみなすことができます。例えば、分散型ステーブルコインを構築するMakerDAOのトークン保有者は、システムのガバナンスを行い、(プロトコルが)徴収する手数料などのパラメータに投票することができます。
もう一つの例は、Curve DAOです。Curve DAOではAutomated Market Maker(AMM)を構築し、トークンをロックしたトークンホルダーに報酬を発生させ、(プロトコル収益の)レベニューシェアを提供しています。Curveトークン(CRV)がロックされている期間が長ければ長いほど、DAOメンバーは受け取る議決権の量や報酬が大きくなる設計です。このDAOは、利益だけが分配される従来型企業とは異なり、議決権と収益双方が比例し分配されるように設定されています。
DAOが保有する資産は、トークンを介してステークホルダーが直接コントロールすることができます。ステークホルダーは世界のどこにいても仮名で構いません。これらの仮名のステークホルダーが集まって、DAOの資産を従業員の雇用を含めた、あらゆる活動に割り当てることができます。これは既に発生している事例です。何百人もの既知のメンバーと仮名のメンバーで構成されるDAOは、コミュニティ内の評価だけで、従業員を合法的に雇用しています。例えば、Empty Set Dollar(ESD)DAOは、コミュニティマネージャーのLewiに18万ドルの給料を支払っており、彼はこれが自分のキャリアの中で最も高い給料です。TezosやDecredのような他のブロックチェーンでも、貢献者に報酬を与えるために、このようなシステムが導入されています。
投資や助成金といった資金調達を行うことを目的に作られたDAOがいくつも見受けられます。Moloch DAOは、イーサリアムのエコシステムを発展させるための助成金(Grant)を与えるDAOです。また、DAOの全体的な決定に同意できない場合は、「ragequit」で(Moloch DAOから)資金を引き出すことができるようになっています。なおMolochDAOのコントラクトは何度もフォーク(分岐)され、他のDAOが作られています。MetaCartel Venturesは、Dappsに投資する営利目的の投資ファンドで、ZapperやRaiなど多くの著名な暗号プロジェクトの初期投資家でもあります。このDAOのメンバーは、クリプトコミュニティの経験豊富な構築者で構成されています。同様に、The LAOもイーサリアム愛好家で構成されたDAOで、BoardroomやAavegotchiなどのプロジェクトに初期から投資しています。MetaCartel VenturesとThe LAOは、どちらもDAOのメンバーと仕事をしたいと考えている創業者や、DAO自体がクリプト分野の理念を体現していることから、多くのベンチャーファンドと同等か、時にはそれ以上に、クリプトエコシステムのディールフロー(投資ソーシングという意味)に強いアクセスを持つDAOの例です。
また、NFTアートやバーチャルゲームのアイテムを所有するなど、より具体的な投資機会に対応したDAOも登場しています。Yield Guild Gamesは、Axie Infinity、League of Kingdoms、The Sandboxなどのゲーム作品のNFT(NFT化されたゲームアイテム)を購入することで、ゲーマーを投資家に変えているPlay-to-Earn型のゲームギルドです。
FlamingoDAOは、NFTにフォーカスした営利目的の投資DAOです。彼らはNFTに積極的に投資しており、珍しいCryptoPunkのNFTに762kドル(8,434万円)のETHを支払ったことで話題になりました。
また、Raid Guildのようにタスクを中心に組織化されたDAOもあります。Raid Guildは、クリプト分野の空間でプロダクトを作ることができるビルダーやデザイナーの分散型集団であり、MetaFactoryは、ファッションや文化を中心に組織化され、彼らが作成した商品(洋服などのグッズ)を販売しています。
Aragon、DAOStack、DAOhaus、Llama、MyCoなど、DAOを作成・調整するために作られたツールが多数あり、DAOのメンバーはすべてゼロからDAOを作成する必要はありません。
また、Snapshotのように、トークン保有者による投票のためのプロポーザルを特別に管理するツールも存在しており、プロポーザルに関連する詳細や、その投票の状況を簡単に確認することができます。
Automataのように、ガバナンス権利を売買するようなプロジェクトも存在します。このコンセプトは、多額の資本を持つ人が票をコントロールできるようになるかもしれないので、議論の余地があるかもしれませんが、私はこのような種類の貸し借りのシステムが生まれることは避けられないと思いますし、プロジェクトがガバナンスシステムを強化するきっかけになるだけだと思っています。
データアナリティクスの面では、DAOエコシステムを追跡するためのWebサイト、Deep DAOが存在します。数字は必ずしも網羅的なものではありませんが、(各DAOにおける)メンバー数、プロポーザル数、投票者数などの数値を見ることができ、興味深いです。
DAOにはたくさんの興味深いユースケースがありますが、これはまだ実験が開始された段階に過ぎません。DAOでは、ガバナンスシステムを早いペースで試し、何が有効で何が有効でないかを素早く改善することができるようになるでしょう。例えば、メンバーが予測市場で賭けを行い、その結果をもとに行動を決定するFutarchy(経済学者ロビン・ハンソン氏によって提唱された政府の形)を使ったDAOが生まれるかもしれません。
また、DAO自身が多くの異なるプロトコルにサービスを提供し、その見返りとしてガバナンストークンを受け取ることで、メタガバナンスが実現するでしょう。DAOは投票したり、他のDAOのデリゲーター(委任者)として行動するようになるでしょう。
また、考えられるユースケースの一つとしては、すべてのメンバーが匿名で、自分の身元を明かすことなくDAO内での評判を高めることができるDAOがあります。これにより、メンバーはより公平な競争の場に立つことができ、DAOは(美人投票のように)すでに多くのフォロワーを持つ注目度の高いメンバーに仕えるのではなく、個々の貢献者に報いることが容易になります。
DAOのもう一つの興味深いユースケースは、NFTアートのコレクティブを所有することで、各メンバーがアート作品の異なる属性に投票し、個々の属性に応じてアート作品全体が変化するというものです。
DAOは強力な組織化の方法ですが、潜在的な問題があるかもしれませんし、すべての組織に理想的なシステムではありません。DAOは法的な契約の側面をコードで置き換え、運用上のオーバーヘッドを大幅に削減することができますが、DAOを促進するスマートコントラクトにより定義されたルール以外については、法的保護がありません。これは、DAOの管理が中央集権的であったり、定義が曖昧であったりする場合に問題となる可能性がありますが、一部のDAOはDAO自体の背後に法人を形成することがあります。また、ワイオミング州のDAO法案がワイオミング州上院委員会で可決されましたが、これは法的に認められたDAOの設立に役立つものです。
DAOの設立方法によっては、CEOのような中央集権的なリーダーシップが必要なときに迅速な決定を下すのに比べて、調整や迅速な行動が難しくなるかもしれません。しかし、DAOはあまり時間のかからない定足数を設定したり、DAOメンバーがどれだけ反応する必要があるかという要件を設定したりすることができます。また、決定すべきことが多い初期の段階では、特定のメンバーの間でより中央集権的な活動を行い、時間の経過とともにDAOは "プログレッシブ・デセンタライゼーション(漸進的分散化) "と呼ばれる分散化を行うこともできます。
また、すべてのメンバーが投票を行いたくない(モチベーション)、またはすべての変更について投票に参加するのに最も適しているとは限らないという、投票者の無関心の可能性もあります。このような場合には、より多くの情報を持ち、自分の信念に沿った投票を積極的に行うことができるメンバーに投票を委任する有権者が出てくるでしょう。これらの代表者は、既存の政治家が行うのと同様に、DAO内のメンバーから委任された投票を求めてキャンペーンを行うことが多いため、プロトコル・ポリティシャン(プロトコル政治家)と呼ばれることもあります。これらの政治家の決定に影響を与えようとするプロトコル・ロビイング・グループが出現するかもしれません。また、逆にDAOがロビー活動を行い、社会の主要な政治機関となる日が来るかもしれません。
また、メンバー参加の定義をオープンにすることで、DAO内の質の低下やノイズの増加を招く可能性があるという問題もありますが、DAOの審査プロセスやトークンの最低保有額を設定することで、少なくとも参加者が投票に参加し、DAOの成功によって、インセンティブを得られるようにすることで対応できます。
DAOをさらに理解するための追加リソースをご紹介します。
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この記事をレビューしてくださったWill Warren氏、Jordan Clifford氏、Brian Flynn氏に感謝します。
免責事項:Linda XieはScalar Capital Management, LLCのマネージング・ディレクターであり、ETHとEthereumトークンを保有している、クリプトアセットに特化した投資マネージャーです。この投稿は投資アドバイスではありません。