ブロックチェーンカルテ MediLinker、実装は近い

2023年6月、ブロックチェーン上の医療情報管理プラットフォーム『MediLinker』の詳細が公表されました。もうすでに医療現場への実装段階となっていることが明らかとなっています。医療情報という側面から患者中心の医療が実現する日は、そう遠くないかもしれません。

❚ 患者中心の医療実践のために

ブロックチェーン技術の普及によって、医療情報を医療機関による中央集権管理から、個人による分散型管理へと移行することが技術的には可能となっています。

2023年6月、テキサス大学が中心となって開発しているブロックチェーンベースの分散型医療情報管理プラットフォーム "MediLinker" について、詳細がホワイトペーパー(Bautista, 2023)として発表されました。

ホワイトペーパーの内容から、ブロックチェーンカルテの医療現場への実装はかなり近づいているとの印象を受けます。

この報告の概要をまとめてみます。

❚ MediLinker: 患者中心の医療を実現するブロックチェーンベースの分散型医療情報管理プラットフォーム

ブロックチェーン技術によって情報を安全かつ効率的に管理できる

患者中心の医療を実現するには、自分の健康情報には自分でアクセスし、コントロールできることが重要です。しかし、患者の健康情報は医療機関によって管理されているため、アクセスや管理が制限されています。

医療情報が断片化されると医療の透明性が低下し、医療の効率的な提供が妨げられます。その反面、医療情報を一元的に保管すると、データ漏えいのリスクが生じます。

ブロックチェーン技術は、健康情報を分散的に安全に保存・転送するための有望な技術です。

MediLinkerは、ブロックチェーンベースの分散型健康情報管理プラットフォームとして開発されています。 このホワイトペーパーでは、MediLinkerの概要と今後の開発と実装について紹介します。

MediLinker

2019年から、テキサス大学オースティン デル・メディカル・スクールの医療提供者、ソフトウェアエンジニア、ブロックチェーン専門家、ユーザーエクスペリエンス専門家からなる学際的なチームは、MediLinkerと呼ばれるブロックチェーンベースの自己主権型IDソリューションと医療情報管理アプリケーションを開発し、研究を行ってきました。

一般に、MediLinkerは、ブロックチェーン技術を利用した患者と医療提者間のVC(Verifiable Credentials:内容の検証がオンラインで可能なデジタル証明書)の発行・共有のためのウォレットです。MediLinkerを使用することで、患者はデモグラフィック、プロフィール写真、投薬履歴をVCに提示することができます。

患者は生体認証機能付きのスマートフォンアプリケーションでMediLinkerウォレットにアクセスし、診療所のスタッフはウェブアプリケーションでやりとりします。MediLinkerアプリケーションで、患者は(QRコード経由で)医療提供者と安全な接続を確立し、患者の政府発行の身分証明書やその他の物理的なカードを使用して、診療所スタッフが検証した属性を持つVCを作成することができます。一旦確認されると、診療所スタッフは患者のデジタル・ウォレットにVCを発行することができ、このVCは物理的な文書なしで他の参加機関とデジタル的に共有することができるようになります。MediLinkerは、患者の健康情報へのアクセスを容易にすることで「21世紀の治療に関する法律」を実現するだけではなく、ブロックチェーンを活用して電子健康情報の機密性・完全性・可用性を強化することで、HIPAAセキュリティ規則(National Institute of Standards and Technology, 2022)に容易に準拠するように開発されました。

MediLinkerの開発段階

  • フェーズ 1(2019-2020年)カスタムビルドのウェブアプリケーションによる患者中心のデータ共有のための概念実証 (POC) を確立。

  • フェーズ 2(2020-2021)患者中心のデータ共有を目的とした、生体認証を備えた忠実度の低い iOS アプリケーションを開発しました。

  • フェーズ 3(2021-2022)ライブネステストを使用して、機密性の高い医療データを患者が制御しながら送信できるようにするためのデータ流動性モジュールを実装しました。具体的には、HL7 FHIR 標準バージョン 4.1 を使用して、信頼できる診療所のシミュレートされたEHRとMediLinker医療データリポジトリの間で、患者が管理するデータを転送します。

  • フェーズ4 特定のプライマリケアクリニックでMediLinkerの導入研究を実施し、実際の臨床環境でその有用性をテストします。

  • フェーズ5(2024年初頭)実際の患者からのライブヘルス情報を使用して、特定のプライマリケアクリニックにMediLinkerを導入します。

  • フェーズ6 資本市場を活用して現実世界における将来の開発と実装を支援することによるMediLinkerの商業化。

今後の作業は、Android版のMediLinkerの開発に向けられる予定です。また、MediLinkerを使用する患者や診療所が増えるよう、必要な計算能力を拡大して適切かつ安全に対応できるようにする必要があります。

MediLinkerの導入に普及と実装の原則を組み込むことで、実際の臨床現場で厳密にテストし、他の診療所でそれをどのように再現するかについての知見を得ることができるでしょう。そして、導入研究の結果は、実際の臨床環境におけるMediLinkerの有用性に関するベンチマークとなるでしょう。

❚ 参考文献

Bautista JR, Harrell DT, Hanson L, de Oliveira E, Abdul-Moheeth M, Meyer ET, Khurshid A. MediLinker: a blockchain-based decentralized health information management platform for patient-centric healthcare. Front Big Data. 2023 Jun 22;6:1146023. doi: 10.3389/fdata.2023.1146023. PMID: 37426689; PMCID: PMC10324561.

MediLinker (Blockchain) - The University of Texas at Austin

■ 編集長byc (bycomet) Editor, Director & Physician2007年からブログやツイッターで活動を開始。ウェブマガジン「地域医療ジャーナル」(2015-2023年、有料会員数10,886人月)、オンラインコミュニティ「地域医療編集室」(2018-2022年、累積登録40人)を編集長として運営。2022年にはオンラインプラットフォーム「小さな医療」を開設。現在、登録会員数120人。地域医療に携わる医師・編集長として、エビデンスに基づく医療の実践と情報発信をつづけています。

■ 小さな医療 Discord(コミュニティ)https://discord.com/invite/hqhYRV3PJm

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