バイタルサインと診察で肺炎は除外できる?

2019年に発表されたメタ分析によると、急性呼吸器感染症の成人患者において、バイタルサインおよび胸部診察所見が正常の場合には感度 96%と、市中肺炎(CAP)の可能性は極めて低くなります。

研究の概要

参加者

成人および青年の外来患者(救急外来、プライマリ・ケア、緊急診療所)

介入

  • バイタルサインの評価(体温、呼吸数、心拍数

  • 診察(胸部聴診所見の確認

【正常なバイタルサインの定義】
体温(Temperature):37.8°C以下(≤37.8°C)
心拍数(Heart Rate):100回/分未満(<100 bpm)
呼吸数(Respiratory Rate):20回/分未満(<20 bpm)

比較

  • 胸部X線(CXR)を標準診断法とした場合の診断精度

  • CRP(C-リアクティブプロテイン)や臨床診断スコアとの比較

アウトカム

市中肺炎の除外における臨床診断ルール(CDR)の診断精度(感度、特異度、陰性尤度比)

研究デザイン

システマティックレビューおよびメタアナリシス
MEDLINEデータベースを用いた文献検索(検索期間:2017年1月)

結果

  • 12件の前向き研究(1984年~2010年、うち6件は救急外来、6件はプライマリ・ケア施設で実施)

  • 研究対象となった患者総数:10,514人

  • 各研究のサンプルサイズ範囲:246~2,820人

正常なバイタルサインのみでCAPを除外する場合

  • 陰性尤度比(LR-): 0.24(95%CI, 0.17–0.34)

  • 感度: 89%(95%CI, 79–94%)

  • CAPリスクが4%の場合、CAP発症確率は0.4%に低下

正常なバイタルサイン + 正常な胸部診察所見でCAPを除外する場合

  • 陰性尤度比(LR-): 0.10(95%CI, 0.07–0.13)

  • 感度: 96%(95%CI, 92–98%)

  • AUROCC(ROC曲線下面積): 0.92

文献

Marchello CS, Ebell MH, Dale AP, Harvill ET, Shen Y, Whalen CC. Signs and Symptoms That Rule out Community-Acquired Pneumonia in Outpatient Adults: A Systematic Review and Meta-Analysis. J Am Board Fam Med. 2019;32(2):234-247. doi:10.3122/jabfm.2019.02.180219.

研究の背景

  • 市中肺炎(CAP)は成人における主要な死亡原因の一つであり、米国では年間50,000人以上が死亡している。

  • CAPの診断には胸部X線(CXR)が推奨されるが、全患者に撮影するのはコスト、利便性、被ばくの観点から現実的ではない。

  • 医療コスト削減や不要な抗生剤使用を減らすため、低リスクの患者を適切にスクリーニングし、X線検査を省略する**臨床診断ルール(CDR)**の確立が求められている。

  • これまでの研究ではCAPの診断に焦点が当てられてきたが、CAPを除外するための臨床基準についての体系的な検討は少ない。

  • 本研究の目的は、外来患者においてCAPの可能性が低い患者を特定する臨床診断ルール(CDR)を評価し、最も有効な基準を明らかにすること。

研究の限界

  • 研究の質にばらつきがある

    • 採択した12件の研究のうち半数(6件)は中等度のバイアスリスクがあると評価された。
  • 古いデータに基づく研究が多い

    • 研究の対象期間は1984年~2010年であり、最新の診断技術や医療環境を反映していない可能性がある。
  • 一部の研究では、CAPの診断基準が統一されていない

    • 「異常な肺診察所見」や「発熱」の定義が研究間で異なるため、結果にばらつきが生じる可能性。
  • 一部の研究では、低リスク患者のX線撮影がランダム化されており、CAPの見落としがあるかもしれない

    • すべての患者にCXRを実施していない研究も含まれており、見逃し率に影響する可能性がある。
  • CRP(C-リアクティブプロテイン)などのバイオマーカーを含めた評価が十分ではない

    • 一部の研究ではCRPを含む診断ルールを評価しているが、本研究では主にバイタルサインと肺診察に基づく診断を検討。
  • 医師の「総合的な臨床判断」の役割を十分に評価できていない

    • 医師の直感的な判断(例:「これはCAPではない」)が診断に与える影響を詳細に分析していない。
  • 「高リスク患者」に対する臨床診断ルールの有効性は検討していない

    • 低リスク患者の除外に焦点を当てており、重症CAPのリスク評価には適用できない可能性がある。
  • 新しい診断技術(AIや機械学習など)との比較がない

    • EHR(電子カルテ)やAIを活用した診断精度との比較は行われていない。
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