ブロックチェーンに関連するプロジェクトは、しばしばガバナンスの分散化の試みがされている。ガバナンスでは、ガバナンストークンと呼ばれる通貨の導入例が多く見られ、プロトコルの維持管理作業に関して円滑な合意形成を図る。特に、ガバナンスのセキュリティの確保のために委任の仕組みが導入されているが、委任された人がガバナンスに参加できなくなった場合、ガバナンスのセキュリティの確保が困難になる場合が考えられる。本記事では、その緩和策としてMultiDelegateを提案する。
委任の仕組みがないガバナンストークンによる投票は、以下のように行われる。
トークンホルダーは、スナップショットが撮られた瞬間に保有するトークン量に比例した投票力を得る。
トークンホルダーは投票期間内に投票を行い、投票期間後に結果を得る。
ただ、これには大きな問題点がある。それは、大量にトークンを保有する人が投票結果を左右しやすいがために、少量しかトークンを保有しない人が投票するインセンティブが欠けてしまうという点だ。投票に参加する人の減少は、投票に利用されるトークンの割合の低下を招き、投票結果の正当性が得られにくくなったり、攻撃者が投票結果を左右しやすい状況を作りやすくなったりする。
この問題点を緩和する仕組みが、委任である。つまり、トークンホルダーは信頼しているコミュニティメンバーに委任をするのである。少量しかトークンを保有しない人は、わざわざ提案を読んで投票する必要がなく、「信頼している詳しい人」が投票力を代わりに行使してくれるのである。
このように、委任は投票に利用されるトークンの割合の低下を緩和する優れた方策である。しかし、たくさんのトークンを委任された人がガバナンスに参加できない状況になった場合、投票に利用されるトークンの割合が低下してしまうという問題点がある。
具体例を示そう。私はあるDeFiプロトコルにおいて、複数名から委任されている。委任されたトークンの量は、最近通過した提案に投じられた投票力のうち、約3割にあたる量である。もし私が突然死んでしまったり、ガバナンスに興味を持たなくなってしまったりした場合、その約3割の投票力が行使されなくなってしまうのである。これは、ガバナンスに委任のしくみを導入した目的を考えれば本末転倒である。
もちろん、頻繁に投票状況を確認し、もし委任先が投票しなくなったら違う人に委任すればこの問題は解決する。しかし、そもそも少量しかトークンを保有しない人はそのような「めんどくさいこと」をするだろうか。
そこで、MultiDelegateを提案する。MultiDelegateは次のような仕組みである。それは、トークンホルダーが「複数の」信頼しているコミュニティメンバーに委任をするというものである。あるトークンホルダーが保有するトークンをXとし、委任したメンバーの人数をYとした場合、投票力はX/Yに分配される。さらに、トークンのすべてを投票力に変換するために、次のような仕組みを導入する。
それは、もし委任したメンバーのうちZ人がある提案に投票しなかった場合、投票力をX/(Y-Z)に分配するというものだ。つまり、委任したメンバーのうち、最低でも1人が提案に投票すれば、そのトークンホルダーが保有するトークンのすべてが投票力を行使するのである。この投票力の分配は、各提案ごとに行われる。
MultiDelegateには以下の問題点が存在する。
投票期間が終了するまで、個々人の投票力が確定しない。
仕組みが複雑である。
ブロックチェーンにおけるガバナンスは、分散を求める精神に基づいている。しかし、既存の委任システムでは一部の問題点が浮き彫りになっており、その解決のためにMultiDelegateを提案した。