昨年から音楽NFTを購入し始めた。
未知の領域で挑戦するアーティストに共感し、多くのアーティストの音楽NFTを収集し続けている。
一時期、音楽NFTのコレクターランキングで上位にいたこともあり、アーティスト、NFTコレクター及びプラットフォームの創業者などと知り合い、会話をするようになった。新しい知人・友人が増えて嬉しかった。
彼らとの会話の中でweb3で音楽がどうかわっていくのか、アーティストはどのように関わっていくべきかなど話をする機会も多く、自分でもブロックチェーンの技術により起こるパラダイム・シフトによって音楽業界がどう変わるのかを考えるようになった。
この記事は、現時点でのweb3で音楽がどう変わるのか?についての自分の考えをまとめたものである。読んでみて、多くの人と議論できたら嬉しい。
僕は中学生の頃、お小遣いを握りしめてシングルCD1,000円、アルバム3,000円を買っていた。その頃、父親から譲り受けたパソコンでNapsterというP2Pのサービスを知り、音源データが自由にやりとりできることに衝撃を受けたのを覚えている。
後から振り返ると、Napsterが登場するまでは、レコード・レーベルが音楽業界において今よりもっと重要な役割を果たしていた。
レコード・レーベルは、アーティストの初期に資金を提供する投資家だった。
スタートアップにおけるベンチャーキャピタル(VC)のような存在だ。音源制作に資金提供を行う代わりに音源の権利を獲得し、アーティストがヒットしたときに大きく収益を上げることができた。
しかし、収益を上げるのは一握りの人気アーティストで、その収益によって他のアーティストの費用を賄うモデルだった。
昔は、学校や職場で前日のテレビ番組の話題を共有できた。
当時は、テレビ、ラジオ、雑誌などの限られたメディアでアーティストを宣伝する上でレコード・レーベルは強い影響力を持っていた。
インターネットの登場により、その役割は変化してきた。しかし、レコード・レーベルは一部の人気アーティストに頼るモデルであったため、小規模でニッチなジャンルやアーティストのステージ別にマーケティングを最適化することは困難だった。
HMVやタワレコに数時間滞在し、まだ知らない良い音楽を探していたのは良い思い出。
レコード・レーベルは小売業者と強い関係を築き、CDを全国津々浦々まで流通させていた。しかし、ストリーミングサービスが登場し、スマホさえあれば多くの曲を聴く事ができるので、もう店舗に音楽を探しに行くことはなくなってしまった。
ストリーミング全盛の時代において、tunecoreなどIndependentなアーティストを支援する中立的なシステムも登場し、アーティストの中にはうまく利用している人も増えてきている。
ブロックチェーンやNFTなどの技術、DAOなどの仕組みによって、音楽を取り巻く環境は大きく変わろうとしている。
昨年の夏に、「次は音楽NFTだ」と思って、調べ始めたときに、真っ先に目に入ったのはDaniel Allan だった。
彼の楽曲の2020年の年間再生回数は数百万回。ストリーミング収益は月に数百ドル程度のしかあがらず、ライブや他のアーティストの仕事をメインに生計をたてていたそうだ。
しかし、今では、彼は音楽NFTの世界でLegendと呼ばれ、先進的な実験を次々と行い、成功を収めている。
彼は、mirror.xyzで次のEP制作のためのクラウドファンディングを行い、50ETH(取引日の時価で$14万)を集めることに成功した。 彼の当時のTwitterのフォロワー数は200人程度で、この金額を集めたことは衝撃的だった。
時期は前後するが、他の音楽NFTを活用した資金調達の事例を紹介しておく。
2021年2月に有名DJとして活躍する3LAUは自分の楽曲をNFTとしてオークションにかけて販売した。 彼の33個のNFTは合計で$11Mで落札された。
彼はその後、2021年8月に不動産テック大手のOpendoorの共同創業者だったJD Rossと権利を対象とした音楽NFTプラットフォームRoyalを創業し、a16z等から$55Mを調達。
3LAUは、原盤権などの音楽に関する権利を対象としたNFTも扱っていくことを明言している。今後も目が離せない。
音楽NFTの販売プラットフォームのsound.xyzは、アーティストが楽曲1つにつき複数のNFTを販売できる。NFTには、その楽曲のソースファイルと所有権がついていて、著作権等は一切ついてない。要は、アートのように音楽を収集してもらうスタイルをNFTで実現している。
彼らは、「soundで重要な指標は、音楽だけで生計を立てているアーティストが何人いるかということです。」 と言い切っている。
彼らは、プライマリーで$2.5M(2022年5月8日時点)、セカンダリーでの流通総額は$4M(2022年4月11日時点)をリリースから半年で達成した。
現在はsound.xyzは手数料は無料であるため、プライマリーの金額はすべてアーティストに、セカンダリーの金額はロイヤリティ率(だいたい10%)がアーティストに流れたことになる。
NFTってクラウドファンディングだよねという声を聞くことがある。そう思っている人はsound.xyzなどで、できれば、有名ではないアーティストの音楽NFTを購入してみてほしい。
その体験は大きく異なるものなのだ。
前述のDaniel Allanの音楽NFTを購入した直後にDMをもらった。(上記画像)
自分のNFTの購入が役に立ったことを認識できるとともに、彼のプロジェクトの一部、仲間になった感覚をもった。
Danielの例だと、NFTコレクター限定のDiscordのプライベートチャンネルに招待され、会話が始まる。そこでは、コレクターが、コミュニティ・マネジメントを手伝ったり、マーケティングプランを考えたりしていた。
コレクターやファンというより、アーティストを支える仲間に近いように感じた。
僕も音楽NFTの収集を通じて、多くのアーティストやコレクターとつながることができた。Zoomなどでコールを行い、NFTをどのように設計して出すか、NFTの販売資金を何に使うか、どこのプラットフォームで出すかなど、アーティストの相談に乗ることも多かった。
一連の経験を通して、一個人やコミュニティがマーケティングやファン・エンゲージメントの役割を担いつつあることに気づいた。
web3では、プログマラブルな仕組みを構築することができる。
例えば、音楽制作においては多くの関係者が関わる事が多い。その場合、0xSplitなどの楽曲のクレジットごとに収益を分配するプロトコルを使えば、非常に簡単に効率的に収益が分配することができる。
オンチェーン上に関係者のクレジットが記録されて、ちゃんと収益まで分配されるのは一見地味に見えて、とてもクールなような気がしている。
また、アーティスト同士のコラボレーションや他のアーティストの楽曲の使用なども普段から多く行われている。その場合も、オンチェーン上に音源があり、活動も記録されていれば、ロイヤリティの徴収や収益分配を効率的に行うことができる。
これまで見てきたように、従来の音楽バリューチェーンはweb3においては、大きく変わっていくはずだ。
アーティストは、レコード・レーベルとの契約や生計を立てるための仕事の代わりに、熱心なファンと音楽NFTを通して資金調達をすることが可能になりつつある。多くの場合において、レコード・レーベルとの契約より良い経済条件になっている。
次世代のレコード・レーベルは、音楽NFTへの投資実績を持つ熱狂的なファンなのかもしれない。
「あのアーティストはデビュー当時から知ってる。最初のLIVEにも行った」と言いたい人は、これからは音楽NFTを購入して、オンチェーンにあなたの足跡を記録しよう。
インターネットの登場により双方向のコミュニケーションに基づくエンゲージメントが可能となった。それまではメディアを通した一方通行のコミュニケーションがメインだったが、ファン一人ひとりにパーソナライズされた体験を提供できるようになった。
しかし、レコード・レーベルは一部の人気アーティストの収益によって支えられているため、新人やニッチなジャンルのアーティストに適した方法を支援するインセンティブは弱い。
これからは、NFTやDAOを活用することで、アーティストのステージ(新人 vs 大物)、ジャンル(ニッチジャンル vs メジャージャンル)に最適化したサービスを提供できるようになるはずだ。
音楽NFTを通して、新しいつながりが生まれている。
僕も音楽NFTの購入を通して直接アーティストと繋がることができた。(アーティストとファン・コレクター)また、音楽NFTのコレクター同士でも知り合いが増えた。(コレクター同士)更には、アーティストとアーティスト同士もお互いの音楽NFTの購入やコラボレーションを通してつながりがうまれている。
NFTを活用することで、アーティストや音源のまわりにコミュニティが自然と形成されている。そのコミュニティのメンバーがアーティストが音楽活動をする上で必要な機能を提供しはじめている。
例えば、コミュニティマネージャーをコミュニティのメンバーから採用したり、そのアーティストや楽曲をメンバーが自然と広めたり、売り込んだりするようになってきている。アーティストや楽曲の人気が出ることは、NFTコレクターにとっても嬉しいことなので、このような貢献をするのは自然な動きと言える。
ストリーミング、ライセンシング及び楽曲の購入など流通のためのweb3ネイティブのプラットフォームが登場しはじめた。オンチェーン上でストリーミング、ライセンシング、楽曲購入などのアクションがすべて記録されるようになると、透明性の高いデータに基づく著作権の利用料の管理が可能になっていく。
先程紹介したsound.xyzをはじめとして、音楽NFTの流通プラットフォームは数多く出てきている。僕は、音楽のジャンル、アーティストのステージなど細分化されたニーズに特化したプラットフォームが今後も増えていくだろうと思うし、増えてほしいと考えている。
なぜなら、インターネットの出現により人々の嗜好は多様化しているので、もっと多様な音楽が生まれてくると良いと思う。ストリーミングに最適化した曲やトレンドに合わせた音楽だけでなく、アーティストが自分の表現したいものを作れる様になったら良いと思う。
このように、リスクの共有、マーケティング、流通のすべてが分解され、web3に合う形で再構成される。現状は、各事業者がバラバラにサービスを提供しているが、大手レーベルがグループですべての機能をもつように、web3でもバリューチェーンの各機能を一気通貫で提供するフルスタックのプレイヤーが出てくるはずだ。
2020年から音楽NFTが盛り上がり始めた。上の図のように多くの音楽NFTの事業者やDAOが生まれ、サービスを提供し始めた。アーティストや音楽業界でNFTやDAOをどのように使うべきか、議論し、多くの実験を行っている。
(日本からもこの図に加わるようなサービスを生み出していきたい。)
レコード・レーベルの従来のモデルは、インターネット以前のクリエイターエコノミーやweb3が出てくる前の構造をベースにしている。
アーティストが自分の楽曲の権利をより保有するようになれば、当然、マーケティングや流通モデルも変わる。
音源、契約、アプリケーションロジックがブロックチェーン上で共有され、アーティストの音源の利用、ファンの視聴行動、LIVEへの参加などがオンチェーンで記録されるようになる。
このようなことを前提とした場合に、どういう変化が起こるのか、
僕は、アーティストにより多くの選択肢が提供されることで、もっと多様なクリエイティブが生まれてくるだろうと考えている。もっとクリエイティブな世界を目指していきたい。
より多くのアーティストやクリエイターがチャンスを得て、持続可能な創作活動ができる世界を実現すべく、エコシステム全体に貢献していきたい。
そこで、音楽とweb3の実験を行っていくラボ RANDOM SOUND COLLECTIVE を創りました。少しでも興味のある方はTwitterやDiscordに是非参加してほしい。話しましょう!