●● to Earnに感じる違和感の正体について
May 7th, 2022

GW真っ只中、後輩から一通のLINEが届きました。

KAYATOさん。お久しぶりです!STEPN買われていたりしますか?芸人のTKO木下が結構稼いでるって話を聞いて成長市場なら手を出してみたいと思っていて。

TKOの木下さんには失礼かもしれませんが、なんとなく著名人の儲け話の類を聞くと直感的に「炭鉱の中のカナリア」を想起させます。

healeyhero http://www.healeyhero.co.uk/
healeyhero http://www.healeyhero.co.uk/

「買ってない!儲け話にうまい話ないから気をつけるんだよ」と素っ気ない返事をしてしまったものの、少し乱暴な返信の仕方をしてしまった気もして、これを機会に●● to Earnに感じている違和感の正体を言語化しようと思いこの記事を書きはじめました。

●● to Earnに感じている違和感とは

Web3業界において●● to Earnは様々なジャンルで見るようになりました。

  • Play to Earn:ゲームカテゴリーにおける”遊んで稼ぐ”
  • Move to Earn:歩いたり運動したりすることで稼ぐ
  • Sleep to Earn:眠って稼ぐ ・・・などなど

などなど何かのアクションに紐づいて「稼ぐ」ことができるカテゴリーとして●● to Earnは毎日のように目にするようになっています。これらの詳細の説明は他にも多く記事があがっているのでここでは割愛します。

Web3の基盤となるブロックチェーンやトークンの技術を用いて、一種の経済圏を作る試みではありますが、「そんな虫の良い話はないだろう」と一蹴したくなる気持ちもあります。

しかしながら、Play to EarnにおけるAxie Infinityの躍進や、STEPNのトークノミクス構築の工夫を目の当たりにする中で、「新規ユーザーを獲得し続けなければ成り立たないポンジスキームの一種では?」という論点ではない違和感を感じるようになりました。

僕が●● to Earnに感じている違和感は以下3つです。

  1. 目的が2つあると判断力が鈍る
  2. マスアダプションにおけるNFTの価格
  3. 資本主義のルールを●●に適応する意味

これら3つについて言語化していこうと思います。

目的が2つあると判断力が鈍る

●● to Earnは、「●●をすることで稼げる」という、いわば二兎を追うようなコンセプトになっている。それ故にユーザーがサービスを利用する際の目的が、「●●」に入るアクションそのものにあるのか、「Earn」(稼ぐ)ことにあるのか切り分けが難しくなります。

なんのためにサービスを使っているのか、その主目的をユーザーはケースバイケースで入れ替わりすることによってそのサービス利用をすることの意味づけを行える構造になっています。

最初は「●●をするついでに稼げる」というマインドから始まっていたとしても、気づけば「機会損失をしたくないから●●する」という風に動機付けのすり替わりが起こりやすい構造物になっているように思えます。この「●●自体を行うこと」と「稼げる」ことが併存していることによって、目的がすり替わりやすくなりユーザーの判断力は低下しているのではないでしょうか。●●をするために始めたものが、いつの間にかNFTを買った原資を回収するために行動したりしていないでしょうか。(まぁ逆インセンティブとなって目標達成できるのであればそれはそれでOKなのかもしれませんが…)

「稼ぐ」ことに対して最大効率を求めるのであれば、その●● to Earnに必要なNFTの資産性は他のNFTアートや暗号資産・FT(ファンジブルトークン)・証券・株券・現実世界の資産性のある投資対象などと比較した上で投資を行う目線もあると思います。

一方、「●●自体を行うこと」に対して最大効率を求めるのであれば、そのアクションを行う目的に対して他のプロダクトとの比較が行われるはずです。「痩せたい」のであれば、ジムに通ったり、パーソナルトレーナーつけたり、食事変えたりなど様々なアプローチが考えられます。ゲームであれば、同じPSやSwitchなどコンソールゲームなんかも選択肢に入るかと思います。

しかしながら、「●● to Earn」という概念が入ってくることによって、そこには2つの目的が入りユーザーの判断力が低下していく構造になっています。これが「●● to Earn」のサービス設計の肝ではないでしょうか。

●●についてでも、Earnについてでも、そのどちらにでも最大効率を求めないが故に、単体サービスのクオリティが低い構造物であってもユーザーを集められる構造になっています。

Play to Earnのゲームの中で、コンソールゲームよりもゲーム体験として優れているものはどれだけあるでしょうか?「to Earn(稼げるから)」という要素がなくなった上でもその体験が優れているものになっているかは、そのサービスで得る満足感を考える上で大事なのではないかと思います。

もちろん「●● to Earn」自体が過渡期にある故に、ここであげたクオリティ的な懸念点は今後改善されていく可能性は十分あります。

「二兎を追うものは一兎をも得ず」を英語圏だと”fall between two stools(椅子と椅子の間に落ちる ≒ 両方を得ようとしてもどちらも得ない)”というらしいです。

An illustration of an old proverb - Between two Stools https://emuseum.cornell.edu/objects/16678/an-illustration-of-an-old-proverb--between-two-stools
An illustration of an old proverb - Between two Stools https://emuseum.cornell.edu/objects/16678/an-illustration-of-an-old-proverb--between-two-stools

とはいえ●● to Earnも黎明期なので、そのうち二兎ともの満足感を得られる強強なサービスもでてくるかと思います。

刃牙 2巻 12話より
刃牙 2巻 12話より

マスアダプションにおけるNFTの価格

2つ目にある違和感は、一部●● to EarnにおけるNFTの価格の高さです。

21年の8月ごろにAxie Infinityをはじめようと思ったとき、撮影したキャプチャーが以下である。**1番安いキャラクターでも0.1ETH(当時で3万円程度)**でした。

21年8月のAxie Infinityのキャラクター価格
21年8月のAxie Infinityのキャラクター価格

二次流通で販売できるとは言え、コンソールのフルプライスゲームが4~5本買えてしまう初期投資を持ってゲームに参加するのはなかなかにハードルが高かったです。

ちなみにこの記事を執筆するにあたって改めて見たら最低価格10ドル(1,300円※円安さん…)とだいぶリーズナブルな価格感にはなっていました。これであれば3体揃えてもゲーム1本分の価格に近いので参入敷居はだいぶ下がったのかもしれないですね。
※ちなみに最価格帯のキャラでも十分楽しめるんですかね? このあたりはプレイしていないのでよくわかりません。

2022年5月7日のAxie Infinityの価格
2022年5月7日のAxie Infinityの価格

最近話題のSTEPNもiOSのテストフライトで触ったときに表示されていた最低価格帯は6~7SOL(当時で6~7万円程度?)と、リアルの靴でもその価格帯のなかなか買わないなーと思う金額帯で貴族の遊びだなと感じてしまった次第です。

今日見たところ13SOL弱(13万円)ぐらいと参加ハードルはだいぶ上がっているように見えました。(テストフライトリリース時に素直に買っておけば良かった説はあります 笑)

2022年5月7日のSTEPNの価格
2022年5月7日のSTEPNの価格

「●● to Earn」という特性上、そこに登場させるNFTアセットは、一定量の資産性を持たなければユーザーを「to Earn」側の観点だとユーザーを惹き付けることができません。一方、このNFTアセットの価格が高ければ高いほど、「●●」そのものに興味を持っているユーザーのお財布感覚と乖離してしまうという問題点があります。

今後「●● to Earn」系のプロダクトがマスアダプションしていく際には、ここのアセット価格を「to Earn」が魅力的に映るようにしつつも下げていく必要があると感じます。

もっとも●● to Earnのメインターゲットがクリプト系ユーザーを目指している限りは、現状の価格感が市場原理で最適化されているので、あくまでキャズムを超えてユーザーの裾の尾を広げていく際の話ではありますが…。

資本主義のルールを●●に適応する意味

「●● to Earn」はその性質からして、●●に資本市場のゲームルールを持ち込むものです。資本を持っていれば、効率的に勝負に勝つことができたり、他人にアセットを貸し出して自分は●●をせずに稼ぐことだってできます。つまり資本を持つものこそ強者であり、資本を持たない人たちにとって実力で埋めるのは難しい溝ができてしまう世界観ではないでしょうか。

つまりピケティの r(資本収益率) > g(経済成長率(労働賃金の成長率))の再現された世界です。

●● to Earnの中でもこれが顕著にでているのがPlay to Earn、つまりGameFiのジャンルだと思います。

この表で見てもらうと参入障壁の高さとそこから生み出されているリターンがまさに資本市場を如実に表しているのではないでしょうか。

さらにこれらの●● to Earnには、NFTアセットのレンディングで稼ぐスキームもあります。NFTアセットを持ち貸し出すだけで利益を上げる資本家と、借りたNFTアセットで稼ぐ労働階級、これも資本主義の縮図ですね。

Web3やクリプトを考えるときにLeohioさんの「加速主義」という言葉がしっくりきます。

Web3は別に資本主義の格差を是正することもなく、本質的には資本主義を加速させていく装置です。

なので●● to Earnという概念は、その●●において資本主義的な概念を持ち込んでる時点で、本質的に資本を持つものが強者の世界観になっています。

対人ゲームの良さというのは、ユーザーが持っている選択肢やリソースが平等という条件の元であるから面白いものだと思っています。オセロや将棋はもちろんのこと、FortniteやAPEX LEGENDだって、選択肢やリソースが平等という上に成り立っているものだと思います。

そこに現実世界の資本との紐づきが強くなってしまえば、その面白さを再現することは難しいと感じます。メタゲームとしての資本の戦いになってしまいます。そして、こういうサービスで一山当ててやろうと思う人ほど、実は資本は少ないのではないでしょうか。

もちろんファーストペンギンとなりサービス初期から参入することで、少ない資本で大きなリターンを得たり、実力ベースでのリターンが大きい●● to Earnの領域で適切な稼ぎを得ることもできると思います。

とはいえ、資本主義の力学をサービスに強く持ち込んでいる以上、成熟したサービスに参加に少資本で参加して得られる経済的なリターンは限定的なはずです。
そうなってくると、●● to Earnではなく、●●にフォーカスされたサービスを選ぶ方が、ユーザーとしての満足度は高いのではないかと思えてくるのです。

どんな●● to Earnだったら健全か考えてみる

違和感を言語化していく中で少し風呂敷広げて批判めいたことを言及してしまいましたが、 どんな●● to Earnサービスだったら健全か考えてみます。

1. あくまでサービスの主語(目的)は●●になっているか

●● to Earnのサービス主語(目的)は「●●」にあるとブレないサービスだなと思います。Play to Earnであれば、あくまで「遊びを楽しむ」ことが主目的ですし、何らかしらの課題解決を目的としたソリューションであれば、課題解決が主目的になっていれば良いと思います。

この軸足が「稼ぐこと」に重きを置かれたサービスの場合、NFTアセットの価格が高騰したり、トークンの需要供給維持が難しくなりトークノミクスが崩壊するリスクが高くなります。

ユーザーが短期間で稼ぎが大きいような設計をしようとすると、ボラティリティは高くせざるをえない。直近のSTEPNのAMAで語られてたいう話を見るに、そのあたりはすごく意識されている感じがしました。

2. Play to Earn / GameFiにおける平等を考えているか

これは僕個人の考え方が色濃く反映されてしまうかもしれませんが、やはり対人を謳っている以上は、ゲームの選択肢やアセットが資本で制限されない環境であるかは大事だと思います。

もちろん営利企業が運営している以上、マネタイズについては工夫しなければなりませんが、非Web3のゲームでもマネタイズは十分うまくできているのではないでしょうか?買い切りゲームからはじまり、月額費のサブスク、試合内容には反映されないスキンの販売など十分できているような気がします。

Fortniteのスキン販売
Fortniteのスキン販売

一方で、ゲーム内のスキンなどがNFTを組み合わさることに寄って資産性を持つことはPlay to EarnやGameFiにおいてゲーム性を健全に保ちながらマネタイズしていく方法としてはかなり優れていると思います。

特定のIPとコラボしたNFTスキンの販売や大会優勝者への限定スキンNFTの配布など様々な工夫がとれるかと思います。

ゲーム内の試合内容が資本と関わらないような形で、うまくWeb3の特性を活かしたPlay to  Earnが実装されているゲームは既存のコンソールゲームをプレイしてるゲーマーにも受け入れられるものかと思います。

※もっとも、資本での殴り合いが好きだというユーザーも一定量存在し、ソーシャルゲームの類は資本によって「俺強い」という満足感を得るものであり、その延長線上にあるクリプトゲームもあるかと思います。

最後に

長々と書いてしましましたが、●● to Earnのような「ながら稼ぎ」はコンセプトとしては面白いと思いますし今後も●●部分の質が高いサービスについては伸びていくと思います。

一方で後輩くんのように「稼ぎたい」が主語であれば、サービスを選び抜いてファーストペンギンになるか、●● to Earnにこだわらず選択肢を見つけた方がよいのかもとも思いました。

一方的な目線もあったと思うので、他の解釈などあればぜひコメントください。 https://linktr.ee/_kayato

askyvさんの「web3はポンジとエンタメでできている」というエントリーも●● to Earnを考える上で勉強になりました。今回コミュニティの角度から●● to Earnを論じていませんでしたが、コミュニティの角度から見ると少し違った目線になるなとも思います。

コミュニティがプロダクトを良くするための動機付け・対価として機能するto earnは悪ではないのではないか」という観点も大事だなと。

余談

こんな記事を書いている最中にも、新しい●● to Earnが登場していました。魑魅魍魎が跋扈するクリプト界隈面白いですね。

こんなクリプトの荒波で稼ぐ人は、「考えるな、感じろ」マインドでどんどんチャレンジしているかもしれませんね 笑。こうやって僕はSTEPN買わずにいる中、STEPN婚をした話がタイムラインに流れていました😂

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