Web3.0勉強会: 3. 特徴・従来のビジネスとの違い

こんにちは!iscream株式会社代表の成田です。

Web3.0勉強会の資料から今回は最終回の第3章「Web3.0の特徴・従来のビジネスとの違い」についてです。

第1章、第2章でWeb3.0の背景や全体像から現在の市場環境や主要なサービスまで把握できたと思うので、最後に取り組みを始めるにあたって理解しておくべきポイントを押さえてもらえればと思います!

1. Web3.0とは (←前々回)
 概要
 ブロックチェーン
 スマートコントラクト
 データ所有・アクセス
 Web3.0 Stack

2. 市場環境 (← 前回)
 概況・市場規模
 NFT
 DeFi
 DAO
 最近のビジネスモデル

3. Web3.0の特徴・従来のビジネスとの違い (←今回)
 トークンエコノミー
 カルチャー
 競争優位性
 サービス構築
 投資

第1章は↓

第2章は↓

尚、スライドだけざっと眺めたいという人は最後にSlideshareのリンクを載せています。

トークンエコノミー

トークンエコノミー
トークンエコノミー

Web3.0のプロダクトの最大の特徴といっても良いのが、トークンを活用することでプロダクトに経済をもたらすトークンエコノミーです。従来のサービスでもサービス内で利用できるポイントを持つものはありましたが、ブロックチェーン上のトークンには以下のような従来のポイントとは違う特徴があります。

  • 規格 (REC721等)を利用することで比較的容易にトークンの設計・発行が可能
  • グローバルに簡単に売り出し可能(各国の法制度の把握は必要)
  • 株式に比べ短期間での24/7動く暗号資産取引所へ上場(DEXでは即時取引可能)

これらの特徴を持つトークンを利用することで初期のユーザーを効果的に獲得することができます。また、トークンを保有するユーザーはプロダクトを盛り上げるインセンティブ(ユーザーが増えればトークン価格も上がる)が発生するためプロダクト成長にも繋げることができ、多くのWeb3.0プロダクトでトークンが活用されています。

トークンのアロケーション(創業チーム、投資家、プライベートセール、パブリックセール、ユーザーへのインセンティブ用など)や供給スケジュールは、一般的にプロダクトリリース時のホワイトペーパーに記載されます。Web3.0の思想的には、ビットコインのようにあらかじめ決めたスケジュールに沿って自動的に供給や償却されていくのが理想的ですが、最近のプロダクトを見るとトークン価値の安定のために初期は運営側が供給・償却を判断し、その後にトークンホルダーによる意思決定に移行していくといった事例が多くみられます。

ユーザーの定常的な拡大とインフレ/デフレに留意したトークン供給量のコントロールは国家の金融政策にも例えられ、プロダクトのタイプ毎にトークンアロケーションや供給スケジュールのベストミックスが議論されていますが、未だ長い歴史あるわけではないので今後もトレンドは変化していくのではないかと考えています。また、この辺りは正に経済学にも通じるものであることから専門家や経済学者の方が研究したりプロダクトに携わっている事例も多くみられます。

カルチャー

カルチャー
カルチャー

Web3.0は未だ黎明期ということもあり、プロダクトのサイクルが早く、現在のトレンドやプロダクトが数ヶ月後には話題に登らなくなったり、また逆に盛り上がっていなかったものが突如盛り上がるといったことがこれまで何度も起こっています。昨年のNFTの盛り上がりを例に取ると、2020年時点で2021年の盛り上がりを予測できた人は殆どおらず、また21年上半期に市場拡大した際にも下半期にその比較とならない規模の成長になるとは予測し難かったと思います(予測できていたら今頃大金持ち!)。このサイクルの速さは、毎日のように世界中の大型の調達やプロダクトのリリースがあることから個人的にも肌感覚として感じているところです。その意味で、リサーチしたいことがある際に最新の動向・深い情報を得るためには従来のGoogle検索のような方法はほぼ役に立たず (あくまで個人的な見解ですが)、最前線の人たちはTwitter上で情報の波を日々浴びながら自分自身でも発信し続けることで情報が集まりやすい仕組みを自ら構築しているように思います。さらに深い情報はDiscordやTelegramといったよりプライベートなスペースで最前線の人やプロジェクトに直接聞くことで入手したりしています。

オンライン上では独自のコミュニケーション(gm、LFG、WAGMIなどの言葉。スライドでは自民党のデジタル社会推進本部 NFT PT座長の平議員が活用している様子を紹介)がなされ、Cryptoに触れている人達とそれ以外の人達との間に断絶や情報差が生まれる様を表すクリプトデバイドという言葉も生まれています。また、大量の情報と投機マネーが流入している現在の環境から、安易な利益を求めユーザーを大切にしないプロジェクトや、有名プロジェクトに乗じた詐欺なども少なからず発生しており、Twitter上でWeb3.0に関して発信しているとDMや勝手なタグ付け(スライドでは私が受けたものを例示)をされることも多く、新規参入者に対して怪しい印象を与えるものにもなっています。

また、これはインターネットの特徴とも言えるかもしれませんが、Web3.0の分散化の概念とも相性の良い偽名による活動が多いというのも特徴の一つだと思います。スライドで載せているのはNFTマーケットプレイスの大手OpenSeaやCryptoKitties、NBA Top Shot等を手がけるNFT界の雄 Dapper Labsにも投資しているTCG (The Chernin Group) CryptoのパートナーJarrod Dicker氏のTwitterとMirrorですが、オンライン上ではむしろdarkstarという名前で著名な人物です。第1章でも述べたTrustless (プログラムが信用を代替)の特徴を持つWeb3.0の世界においては、世間一般の信用(学歴や職歴)よりもSNS上のステータス・繋がり、発信物、ウォレットの中身(保有するFT・NFT)の方が人物を評価する際に重視される傾向もあります。 (Pseudonymous (偽名) 文化についてはこちらのコムギ氏のツイートに詳しいのでご参考まで。)

Moat(競争優位性)

Moat(競争優位性)
Moat(競争優位性)

トークンとオープンソースの特徴から従来のインターネットサービス (Web2.0) とは違った価値の分配が起こっています。インターネットにおいてはTCP/IP (ファイルの転送)、HTTP (Web)、SMTP (メール)、TLS/SSL (セキュリティ) 等のProtocolレイヤーはほぼ価値を享受することができませんでしたが、Web3.0ではProtocolレイヤーにあたるブロックチェーン自体がトークンを発行することで価値を捕捉し、その上に乗る各種レイヤーがこのトークンを利用することで、さらにブロックチェーンの価値が高まるというFat Protocolという現象が起きていて、暗号資産の時価総額ランキングでも上位にいるのは軒並みこのProtocolレイヤーとなっています。

また、Web2.0の競争戦略であるネットワーク効果を最大限に効かせスイッチングコストの高いプラットフォームを構築し追加サービスを付加していくことでARPUを高めていくという方法が、価値の分散や個人による情報のオーナーシップが背景にあるWeb3.0の世界では通用しずらく、カテゴリー毎での独占は難しいと言われています。実際にDeFiの世界で大手DEXのUniswapをコピーしたSushiswapが生まれ成長したり、NFTマーケットプレイスでも最大手のOpenSeaをコピーし、更にトークンのインセンティブを追加してマーケットインしたLooksRareが(議論はありますが、)大きな取引高を記録したりと、これらVampire Attackと呼ばれる手法が少なくない頻度で起こっています。Web3.0でのMoat (競争優位性)については多くの議論がなされていますが、David Phelps氏の定義である以下の3点が個人的にはしっくりきています。

  • LiquidityDeFiをイメージすると理解しやすいと思いますが、お金と人が集まっている場所はより便利になり収益性も上がるという構図があり、DeFi以外のWeb3.0サービスでも初期に如何に流動性を確保し、伸ばしていくかが重要と言われています。
  • CommunityFT (暗号資産等)、NFTに関わらず、参加者にとってはそのプロジェクトが盛り上がる (=需要が高まる) ことで保有するトークンの価格が上がるため、参加者がSNS等で自発的にプロジェクトを宣伝する現象が起きているのはWeb3.0の特徴です。コレクタブルのNFTを購入したことがある人は盛り上がっているプロジェクトの保有者の熱狂具合を肌で感じていると思います。
  • Composability自社のプラットフォームに囲い込んでいくWeb2.0の戦略と異なり、オープンソースが前提であるWeb3.0の世界においては囲い込みは難しく、コストをかけて全て自社で作るのではなく、如何に他のプロダクトと組み合わせて利便性を高めていくというのが重要と言われています。多くのブロックチェーンが自社のチェーン上でプロダクト開発してもらうためにGrant (補助金) を出してプロジェクトを誘致したり、DeFiがマネーレゴとも呼ばれている様子を踏まえてもその重要性が伺えます。

サービス構築

サービス構築
サービス構築

インターネットのユーザーの推移とブロックチェーンのウォレットの推移を比較すると、現時点のWeb3.0はインターネットで言う1998年-2000年頃とよく言われます。ちょうどGoogleが創業した頃 (1998年)でFacebookの創業前 (2004年) と考えると未だ黎明期で今後も想像もしないような市場の形成と大きな成長が起こりうるフェーズであると期待できます。前述のとおりマーケットの移り変わりも激しく、インターネット初期のPets.comのように確実にニーズがあるものの早すぎた故に成功せず消えていったサービスも多くあり、数ヶ月前まで注目されていたプロダクトが全く話題に登らなくなるといったことも繰り返されているフェーズであると感じています。

このような環境下、確立されたビジネスモデルもまだ多くありません。マネタイズに成功しているものもトークン発行益やその2次売買の手数料収入を取るマーケットプレイス等、トークンに依拠するものが中心で多様性はそれほどなく、これからどのようなビジネスモデルが生まれてくるのかを世界中が注目しています。グローバルで見ると日々、多くの大型の資金調達のニュースがありますが、数千億円のCryptoファンドを組成するVCが主導する過熱感のあるマーケットに対し警鐘を鳴らす向きもあり、Web3.0に詳しくない企業や個人からすると参入する際の領域やプロダクトの選定が難しい時期でもあると思います。

また、ブロックチェーンの特性から従来のビジネスと比べて24/7稼働するサービス構築が比較的容易のため、その結果、多くのプロダクトがグローバルで事業展開するため初期からチームを多様性のある形で構成しているのもWeb3.0ならではの気がします。日本発のレイヤー1ブロックチェーンのAstar Networkを展開するStake Technologies創業者の渡辺さんと創業間もない2018年頃にお話をさせてもらった際に「10人以内のタイミングで日本人以外をチームに入れる」と言っていて、実際に5人に満たないタイミングで日本語が殆どできないエンジニアの方を引き入れいて、その視座の高さと実行力に刺激を受けたのを覚えています。また、創業間もないスモールチームの時点から地理的にも分散しながらプロダクト開発・運用しているチームも多くあります。このように多様性を高めたり地理的にも分散するチーム作りは、アプローチできる市場の大きさや人材の確保の観点、また各種法規制のリスクの軽減の意味からも理想的であると理解できる一方で、実際にプロダクト運営した経験からすると、チーム運営やカルチャー醸成の点で想像するのも恐ろしいぐらい難易度が高いだろうなと感じます。ブロックチェーンのコンセプトである分散化の考えに共感している人が集まりやすい領域ではあるものの、日本企業やそこで働いた経験が長い人が取り組む場合は、アンラーンできるかも重要なポイントかなと思います。

実際にプロダクトを運営していくに当たっては、常にTwitterで情報を発信し、キャンペーンを実施して新規のユーザーを集め、既存ユーザーとはTelegramやDiscordといったプライベートコミュニティで交流し熱量を高めていくと言うのが定石となっています。新規ユーザーの獲得の仕方や既存ユーザーの盛り上げ方に関しては、ツールやノウハウが増えてきている印象もありますが、未だまとまった情報が多くある訳ではなく、成功しているプロジェクトを真似ながらみんなが試行錯誤しているような状況だと認識しています。

アプリケーションを作る人にとっては、どのブロックチェーン上で開発するかと言うのも大きな選択の一つです。イーサリアムのようにセキュアで知名度もある一方でガス代が高く競合も激しいものから、未だ競合するアプリケーションが少ないことやガス代の安さ、スピードの速さを売りにするチェーンも増えてきています。最近は、期待値の高い新興チェーンで初期にDeFiのプロジェクトが作られ、そこにお金が集まり(TVL: Total Value Lockedが上昇)、そのお金とポテンシャルユーザーに期待するNFTなどのその他のアプリケーションが増えるといった流れがあり、新規参入する上ではこの辺りのWeb3.0独特のダイナミズムの理解も必須だと感じています。

投資

投資
投資

Web3.0のプロジェクトに対して投資する際の従来との大きな違いは、運営する企業の株式に加えてプロジェクトのトークンに投資する選択肢もあるという点です。株式のケースにおけるSAFE (Simple Agreement for Future Equity) やKISS (Keep It Simple Security) といった初期の調達手段と似た形として、トークンにおいてもSAFT (Simple Agreement for Future Token) といったトークン発行前に将来のトークン発行を約束する形の資金調達手段があります。投資家としてトークンへ投資する場合はこのSAFTやその後の初期のトークン販売であるプライベートセールやパブリックセールに参加する形になります。
(最近は一周回ってSAFE+Side Letterが主流になってきているといった話もありますが、やや複雑なのでここでは割愛します。)

トークン投資の株式投資との主な違いは以下の通りです。
(Crypto VCであるDragon Flyのこちらの記事を参考にしています。 )

  • IPO/M&A前の早期の流動性
    創業から株式上場までの期間は平均して10年程度である一方で、トークンのローンチまでの期間は1-3年程度。
  • 企業価値は調達毎ではなくリアルタイム
    早い時期に2次流通のマーケットにアクセスし流動性が確保できるため企業評価は株式のように投資ラウンド毎でなくリアルタイムで可能。
  • 課税イベントなしの運用
    株式と違い売却によるキャピタルゲインだけでなくDeFi運用による課税イベントを回避しながらの運用が可能。
  • 創業者/チームの割り当て少なめ
    株式会社では一般的にIPO前で創業者が15-25%、オプションプール (従業員割当分) 15%であるのに対し、トークンでは創業者含む運営チーム全体で17.5%程度。
  • 希薄化なし又は透明性のある希薄化
    あらかじめトークンアロケーションと配布スケジュールが提示されるため、将来の投資ラウンドの条件次第で自身の持分がどう変化するか分からない株式と違い希薄化の透明性がある。

また、新しいブロックチェーンにおいてはその運用のためのノード運営 (トークン報酬あり) を実績のある投資家や企業が担うケースがあったり、アプリケーションにおいては一定のトークンシェアを持つことでそのガバナンスやコミュニティ支援に大きな影響力を持つことになります。これにより株式投資に比べてよりプロジェクトに対する貢献が必要で、技術面・運営面でのリソースを持つことも競争力となり、a16zやParadigmといったTop TierのCrypto Fundを運営するVCは、エンジニアやリサーチャーも多く雇用しています。このような技術面・運営面でのナレッジが貯まることでVC自体がWeb3.0プロダクトを開発してリリースするといった事例も起きています。一方で、投資を受ける側のプロジェクトも調達した資金を実際に使うまでの間にDeFiで運用することで更に資金を増やしています。また、香港のブロックチェーンゲーム開発会社Animoca Brandsは自社グループでSandboxのような業界トップレベルのNFTメタバースを開発・運営する一方で、世界中の優良なブロックチェーンゲームに投資する投資会社にも成長しています。

このように投資家側も開発や事業運営に近い立ち位置を取り、プロジェクトも投資や資産運用をするといった形はこれまでの株式市場 (少なくもアーリーステージ) においては見られなかったことで、投資家と開発チームの境界線が曖昧になり、Web3.0に関わる組織に求められる専門性・スキルセットが広範囲に及んでいると感じます。更に、専門性の高さも相まって、最前線の情報が実際にプロダクトを開発しているプロジェクトやTop Tierの投資家に集中し、それ以外の参加者との情報格差が大きくなっている印象があり、情報を持っている側がそれをレバレッジすることができる構図が出来上がっているようにも感じています。

最後に

これにて勉強会スライドの解説は終了です。最後まで読んで頂きありがとうございました!これからプロダクトを開発しようとする方のご参考に少しでもなっていれば幸いです。内容に関し、気になる点や認識間違いのご指摘、感想、深掘りの情報交換等はとてもありがたいので、何かありましたら気軽にご連絡ください!

第1章は↓

第2章は↓

勉強会のスライド全体は↓

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