9月5日19時31分、日経が特報扱いでMUFGとみずほFGがデジタル通貨の構築で提携することを報じました。基盤は三菱UFJ信託が構築してきたProgmatプラットフォームになります。Progmatについての説明は今後別記事で扱う予定なので省くとして、今回は日経が配信したニュースを読みながら今後の動きを考えていきます。
(スタイルはドラめもんさんリスペクトです)
『三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)とみずほFGは企業間決済に使うデジタル通貨で連携する。MUFG傘下の三菱UFJ信託銀行の共通インフラで2024年にも発行するデジタル通貨の枠組みにみずほが参加し実用化を目指す。瞬時に決済が完了しコストもほぼゼロになるデジタル通貨を使い、複雑で高コストな貿易決済などを効率化する。』
リード文です。ここで注目すべきなのは2024年という具体的なタイムラインが示されたことで、これは初公開の情報(のはず)になります。どこがプラットフォームの開発実務を担っているかは現状判然としません(多分NTTデータ)が、やはり開発自体は進捗しているようです。
『三菱UFJ信託は3メガバンクグループやJPX総研、NTTデータなどの出資を受けて10月にデジタル通貨やデジタル証券発行のインフラを担う新会社「プログマ」(東京・千代田)をつくる。』
このプラットフォームを運営するのは三菱UFJから実質的にスピンアウトする形になるProgmat社です。ちなみにこの座組み自体は22年12月の時点で発表されていたものの、その時点では「2023年9月以降の合弁会社設立を目指し」と具体的な会社始動時期は伏せられていました。来月という明確なタイミング指定がなされたのは今回が初です。
参考:https://www.tr.mufg.jp/ippan/release/pdf_mutb/221221_1.pdf
Progmat社は三菱UFJ信託銀行(MUTB)、みずほ信託銀行、三井住友信託銀行、三井住友フィナンシャルグループ、SBI PTS HD、JPX総研、NTTデータの7社が出資して設立されることがわかっています。今年6月に金融庁が行った「デジタル・分散型金融への対応のあり方等に関する研究会」の第11回でMUTBが提出した資料によると、MUTBの出資上限は49%を上限とし、MUTB以外の6社で持株比率の50%を構成します。これは3メガが共同利用するナショナルインフラの構想が最初に来ているためです。
次回以降のラウンドの参加者はグローバルテックや証券会社、アセマネ等を想定しているようですが、この分だと物産系も視野に入っているかもしれません。
『みずほ銀行はプログマが立ち上げる金融機関横断でデジタル通貨発行を検討する枠組みに加わり、デジタル通貨が導入可能な分野を探る。検討には三菱UFJ銀行も参加する。三井住友FGは不動産などの実物資産を裏付けにしたデジタル証券分野での活用を検討する。』
CordaベースのProgmatはあくまで基盤にすぎず、その上にはステーブルコインからデジタル証券、ユーティリティトークンなど幅広いソリューションが展開可能だとされています。
従ってProgmat上に各行独自のデジタル通貨(あえてこう言う)を展開し、自社エコシステムの中で流通させるという展開になる可能性もありましたが、『金融機関横断でデジタル通貨発行』とある以上、少なくともこの2行が同じステーブルコインにコミットするのは間違いないようです。
三井住友FGはデジタル証券分野の活用を模索するようですが、この分野はProgmatと野村系のBOOSTRYがシェアを分け合う形になっており、グループ企業の三井物産も子会社の三井物産デジタルアセットマネジメント(MDM)を通じてProgmatを利用した小口化不動産証券の組成・販売を行っています。その辺りを絡めてくるのか、そもそもSMFGはステーブルコインをやる気があるのかも含めて、ここは続報待ちの状態です。
『ステーブルコインが最も効力を発揮するとみられるのが企業間決済の中でも複雑で時間やコストがかかっている貿易決済の分野だ。まず各金融機関が預金(法定通貨)を裏付けに取引先企業に円建てやドル建てのステーブルコインを発行する。取引先企業が貿易に伴い米国企業に送金する場合、ブロックチェーン上でデータを貿易相手に送信する。』
貿易決済がステーブルコインの「最も効力を発揮する」分野かどうかはかなり諸説あると思いますし、これはProgmatの担当者かこの記事を書いた日経の記者の意見なのではという気もしますが、3メガがステーブルコインに取り組むのであれば企業間決済が主用途になること自体は自然な流れです。リテール決済の領域は市場規模のサイズとしても、現状から改善可能な規模としてもプロジェクトの大きさに対して見合わない部分があります。Progmatは22年6月の段階からデジタル通貨の利点としてT+0が実現することを大きなポイントとして上げていますし、ホールセール方面への展開は予測できました。
(とはいえ、これまで見えていた試験運用や各所の資料を見るに、Progmatはまずはデジタル証券で押していくものだと考えていたので、ステーブルコインとクロスボーダー貿易決済を全面に出してきたのはある程度驚きがあります)
さらに、『ドル建てのステーブルコインを発行する。』
(;∀;)イイシテキダナー
この記事で2番目に重要なポイントです。改正資金決済法では「国内で発行される外貨建て電子決済手段」も想定されていますが、実際に発行される、あるいは発行計画が明らかにされるのは今回のProgmatがおそらく初です。
外貨建ての電子決済手段を発行・取り扱う場合、所定の業者は原則として保全資金を外貨建で積むこととされています。こうした事務を円滑に行えるのはメガバンク系列の信託銀行のの後ろ盾があってこそでしょう。
さらに、Progmat上で展開されるトークンは設計によってはパーミッションレスブロックチェーンとのやり取りが可能であることも分かっています。もしProgmat上で発行されるドル建てステーブルコインがパーミッションレスブロックチェーンで部分的にでも流通可能であった場合、このコインは管轄法域の規制の明確さでも、発行体の信用力でも世界最高クラスのクオリティに達することになります。(USDTもUSDCも裏付資産の保有が法律で義務付けられているわけではなく、両者ともG-SIBsクラスの金融機関の資本は入っていません)
USDCやUSDTに発行額で迫るとまでは行かずとも、ここへ来て日本勢がドル建てステーブルの需要をある程度取り込める可能性が出てきたという点でこの言及は非常に意味があります。
この記事で一番重要なのが
『銀行などは送金手数料のかわりにステーブルコインの裏付けとして預かった法定通貨を運用して収益をあげる。サービスそのものの利用料を徴収するかは今後、詰める。』
>預かった法定通貨を運用して収益をあげる。
>預かった法定通貨を運用して収益をあげる。
>預かった法定通貨を運用して収益をあげる。
(;∀;)イイハナシダナー
日本で電子決済手段として発行されるステーブルコインはその裏付となる日本円を信託等によって保全しなければならないとされているため、外国のSC発行企業が行っているように裏付資産を比較的安全性の高い先で運用することによって利益を上げることは難しいとされてきました。何らかの手段でこの縛りを抜けられるのであれば、この手法がProgmat Coin(仮)の最大の発明であるとさえ言えるでしょう。
またそれとは別に、現行の円の低金利環境下では仮に運用が可能だったとしても諸外国の発行企業のような営業利益を叩き出すことは困難です。先にみたようなドル建てステーブルコインの発行高をどの程度伸ばせるかも問題になってくるでしょう。
また『サービスそのものの利用料を徴収するかは今後、詰める。』とのことで、金利収入と利用料のどちらが主なレベニューソースになるかも気になるところです。個人的には金利収入のほうがスケールしやすい上、利用企業を最大化するためにも、金利収入が入るならば利用料を徴収する必要はないと思います。
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ということで、見るべき点が多いニュースでした。先週頃からProgmat関連で流れるニュースの量自体一気に増えてきている感があるので、ここから10月にかけて気を抜かず見ていきたいですね。
(ちなみに、Bloomberg(Terminalのほう)のフィードはこのニュースを日経を引用する形でヘッドライン流していましたが、もうちょっと大きく扱ってくれてもいいんじゃないかなーなどと思いました。まあそれはそれとして。)
追記:書き終わった後でProgmatの公式ページに開示情報が大幅に増えてることに気づきましたが、もう書いてしまったのでそれはまた別で記事にします