時事ネタに関するエントリを書いてみます。手探りなので形式はまた変わるかもしれません。
USDCを発行するCircle社がMercado Pagoとの提携を発表しました。Mercado Pagoはラテンアメリカ(LatAm)で大手ECプラットフォームを運営するMercado Libreの決済部門で、ラテンアメリカではオンライン・店頭の両方でQRコード決済大手の地位を獲得しています。今回のパートナーシップによりチリのMercado PagoユーザーがUSDCを利用できるようになるとのことですが、具体的な機能やタイムラインは明らかになっていないため、今後のローンチを待ちたいと思います。
Circleがフィンテック企業とパートナーシップを締結することは珍しいことではありません。ただ今回はあるレポートも同時に発表されていることから、Circleの地域戦略を如実に表した例と言えるため、エントリにしてみました。
今回公表されたレポートはこちらです。
Latin America Embraces Digital Finance and the Next Internet Era
内容としては、様々な数値データを参照しながら南米地域のオンライン金融の可能性を強調したものとなっています。かいつまんで見ていくと、
銀行口座を持たない人は全世界に17億人
そのうち、スマートフォンを持っている人は3分の2にのぼる
ドル建のインボイスの割合は南北アメリカで96%、ヨーロッパを除いた全世界では79%に達している
といった事実から、まだ従来型の金融がカバーできていない人々が数多く存在しているものの、生活環境の変化に伴って求められる、また提供可能なソリューションが変化しつつあることがわかります。そんな中インターネットがこうした地域で爆発的に普及したことから
ラテンアメリカでは2500以上のフィンテック企業が登場
かつて銀行口座を持っていなかった2250万人超がフィンテック/ネオバンクにカバーされている
といった形で現状フィンテックが大きく成長しており、かつて既存金融が捉えることができなかった領域をすくい取っています。南米は人口動態の面から見ても若年層が多く、デジタル金融に親和性の高い世代がフィンテック需要・供給を牽引しているほか、当面の人口増加予測もフィンテックの拡大を後押ししています。実際、ラテンアメリカのECやネオバンクといったフィンテック領域は他の地域に比べても成長ペースが速く、NubankやMercado Libreのような高成長企業は他国からも注目を浴びています。
しかしながら、Circleによるとこうしたフィンテックプラットフォーム、既存金融、CBDCといった様々なエコシステムがそれぞれ別個に存在し、断片化しているために、価値交換に摩擦が生じているといいます。これを解決するためにプラットフォームを繋ぐ役目を果たすことができるのが、オープンブロックチェーン上に存在するUSDCというわけです。
デジタル通貨で日常の決済を行ったことがあるラテンアメリカの消費者は51%
ステーブルコインでの決済を行ったことがある消費者は約30%
と、実際にステーブルコインが生活に浸透している兆しは出てきています。
実はCircleがラテンアメリカを推し始めたのは最近のことではありません。以前JPYC社から発行されたレポートでも少し触れられていますが、Circleは少なくとも2020年ごろから積極的にラテンアメリカのフィンテック企業とUSDCの利用拡大を目指したパートナーシップを重ねてきています。Circleのブログから分かるだけでもMercado Libre, Airtm, Lemon, Ripio, Credix, Littio, Parfin, Kravata, Felix Pagoなど10社に迫ります。
ここまでラテンアメリカを推すのはもちろん金融包摂やフィンテックの急成長といった理由もあるとは思いますが、(公に言及はしないものの)これらの国の独自法定通貨の弱さも大きな理由であろうと考えています。
例えば、キューバには3種類の米ドル-キューバペソ両替レートがあり、企業向け・個人向け・闇市場のレートがそれぞれ異なっています。商取引でもペソの受け取りは拒まれることが多いといい、金融包摂以前の問題があると言わざるを得ません。そのほかアルゼンチンでは現時点で政策金利が118%、為替レートも10月の大統領選まで1ドル=350アルゼンチンペソで固定されています。ラテンアメリカの国々の多くの通貨・金融政策は政情の不安定さなどを背景に、先進国の基準からすれば常軌を逸したようなものも多く、そのような中での生活防衛の手段としてのドルは一般市民の生活に根付いています。
フィンテックがドルの入手をある程度容易にしてきた歴史があると思いますが、USDCはそのパイを狙っているのではないかと思います。パブリックチェーンで流通するUSDCは各国政府にとってもフィンテック企業以上に扱いづらい存在でしょうから、あまりに利用が拡大すると外貨流出を阻止したい政府の圧力がかかってくる可能性も考えられます。それでも金融包摂を錦の御旗として掲げているうちは、フィンテックアプリを通じて市民への普及を続けられるでしょう。
ついでに言うと、フィンテックアプリに組み込まれたUSDCがラテンアメリカの経済システムに根を張っていくのは、アメリカ政府にとっても悪い話ではありません。中国と人民元が世界中で台頭しつつある中、米国政府にとって裏庭であるラテンアメリカのドル覇権維持はそこそこ優先度が高くなっているはずです。アルゼンチンが輸入代金の人民元決済を開始したというニュースも出る中、USDCがフィンテックエコシステムのブリッジを担うというのはある意味国益にかなう動きとも言えます。今頃ワシントンDCでCircleのロビイストが宣伝してるような気がします。
ということで、Circleの(おそらく)戦略地域であるラテンアメリカでは今後もUSDCの一般社会へのアダプションが続いていくと思われます。個人が店頭でQRコード決済を行う際にUSDCで支払う、というような例が出て来ればSolana Payなど周辺の決済ソリューションの出番も増えてくるでしょうし、Circle自身が述べているようにプラットフォーム間のブリッジに広く使われるような展開になった場合にはUSDCの発行残高の大幅積み増しに貢献することも考えられます。どう転んでもWeb3エコシステム全体にまで恩恵が及んでくるものと楽観的に見ています。
南米での展開の成否はCircleと各国政府、米国政府と各国政府の関係にも左右される部分はあるかと思いますが、割と期待値高めで見ていきたいと思っております。
金融庁の2023事務年度金融行政方針に「ステーブルコインの円滑な発行・流通に向け、仲介者に対して迅速な登録審査を行うための取組を進めるほか、自主規制団体の設立を促す」との文言が入りました。
ちなみに、昨年度の文書では「まずは、2022年6月の改正資⾦決済法の成立を受け、いわゆるステーブルコインに関する制度を着実に施行・運用する。」との言及がなされています。
SBF氏が保釈取り消しに異議を申し立て。同氏はNYTの記者にキャロライン・エリソン氏の個人的文書を提供したことで先日保釈取り消しの決定を受けていた。
Tornadoのファウンダー2名がSDNY検事により訴追された。うち1名は現在も逃亡中。司法省のプレスリリースにはガーランド司法長官のコメントも。
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