Web3技術を使ったウクライナの戦争犯罪のドキュメンテーションの貢献 - Consensus2022

(元題:「Trustless Evidence: Web 3 is Helping Document War Crimes in Ukraine」)

Starling LabのファウンダーJonathan Dotanによるスピーチです。
StarlingLabは世界の人権を守るために分散型テクノロジー(Decentralized Technology)の使い方を研究している団体です。

現存のインターネットへの指摘

セッションはロシアによるウクライナへの軍事侵攻の話をメインに進められます。

軍事侵攻が開始してからは、ロシア軍による国内メディアの情報に規制が入り、正しい情報の入手が難しくなった際、ウクライナ国民間での情報の共有はE2EE(暗号化)のメッセージツールであるTelegramがメインとなりました。
しかし、Telegramにはデフォルトでは送信する内容は暗号化されず、サーバーにそのまま格納されていることから個人が特定され、危険にさらされる可能性がある事がわかります。また、犯罪に使われる可能性があるメッセージツールである、と政府からの指摘・規制が入る可能性もあり、権威のある第三者が介入し情報を抹殺する可能性がありました。(過去にもTelegramの運営会社へロシア政府が情報提供を要求したこともあります)

しかし、Web3世界での美学は「どのようなレコードも永久に存在する」という点にあります。

Web2の既存のサービスでは最終的には「商売の為」という枠組みが根本にある為、自社サービスに不利益な事が発生すれば正義(justice)とは関係ない事で意思決定がなされてしまう可能性があり、また中央集権的な為に作っている人の思想に偏ってしまいます。
Twitter社の例を挙げるとの現存のルールや規制が好きではないからとイーロン・マスクがTwitter社を買収しましたが、結局はイーロン・マスクの思想に偏ってしまう事が目に見えています。

Dotan氏は今のインターネットは「産業的な構造」(Industrial Structual Internet)になっていると指摘します。

どのように研究を進めているのか?

StarlingLabは歴史的なジェノサイドを研究し、戦争時にどのように情報がコントロールされているのかを研究しています。10つの歴史的ジェノサイドを例にあげていましたが、ホロコースト、ロヒンギャ大虐殺、そして南京大虐殺もリストに入ってました…。また、アメリカの2020年の選挙での暴動や、シリアの戦争についても研究対象としています。

PROJECT DOKAZについて

「DOKAZ」 = ウクライナ語でProofという意味だそうです。StarlingLab社が進めるDOKAZ PROJECTは戦争犯罪のドキュメンテーションをクリプト技術で進めるプロジェクトです。

どのように情報がドキュメンテーションされるかというと「Capture (the information)」→「Store」→「Verify」の順で進みます。

Capture

まずはユーザーにTelegram経由で情報を送ってもらいます。(テキストでも、写真でも、動画でも、ストリートビューでも可能)送る際には指紋や署名も一緒に送ってもらいます。

Verify

送信されたデータは調査員(investigator)によるレビューが行われ、スクリーニングされます。調査員に対して運営はアクセスNFTと監督権NFT(custody)を付与し、調査員が何のデータをいつ見たのかがデータとして残るようにしています。

レビューに合格したデータは「ウェブレコーダー」を通じてメタデータとなり、ブロックチェーン内に日付・時間と同時に記録されます。

Store

コンテンツとメタデータは暗号化されます。そしてこのデータはバラバラに小さく分けられ、複数のサーバーにて分散的に保管されます。全てのデータがオンチェーンにある状況になります。

直近達成したマイルストーンについて

プロトタイプを作るだけではなく、実際に行動を起こし、達成した事がこのスピーチがされていた日の朝に起こりました。ロシア軍によるウクライナ・キエフの小学校や病院への無差別攻撃を戦争犯罪としてICC(国際刑事裁判所)に提出し、裁判官の手にクリプトのドキュメンテーションのデータが裁判官の手に渡ったと報告があったそうです。

これはICCに限らず、国際機関が正式にクリプトデータを参考に案件をすすめるという事案は世界初との事です。

StarlingLabは今まで中心政権により管理されていた戦争犯罪の「正義」のアップデート(transformation of Justice)を行う団体であると締めくくりました。

感想

今までは国際裁判で国を裁く際には中央集権が情報を集め、代表となっていましたが、今回のStarlingLabの研究と新しい情報提供のスキームによってボトムアップで情報が集まり、ある意味どこの国にも属していない団体が提供する情報を元にするという新たな裁かれ方が提示されている事にすごくワクワクしました。

(日本人としてこの話を聞いて思い出すのは第二次世界大戦時の極東国際軍事裁判で、中央集権、特に力のある国と対峙する時の情報操作の恐ろしさや自国の無力さについての感覚がある程度分かる為、StarlingLabが取り組んでいることにはとても共感します。)

改めて、テクノロジーは正しく設計すれば何年も存在していた既存のスキームも覆してしまうくらいパワフルなツールになる事にワクワクさせられました。
そして何よりも、この研究が未来の戦争に対する抑止力につながる事を願います。

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