牛角やしゃぶしゃぶ温野菜はじめ、数々のヒット業態を生み出されてきた外食業界の天才・西山さんの本を見つけたので読んだ。
外食へ参入して10年にあたる39歳の2006年に書かれた本で、このときの業績は店舗数約2,800軒、総売上高3,900億円と凄まじい数字。
この本はどちらかというとテクニカルな部分や戦略というより、西山さんの半生とどういう想いで取り組んでいるかに焦点のある本。
テクニカルな面に関してはこちらの記事などおもしろい。
以下、メモ。
大学生のころ、学生を集めたディスコイベントを運営する会社を起業していた。その頃の西山さんの起業の動機がすごく俗っぽく良い。ここから始まったのかぁと。
ディスコのVIPルームには有名人や実業家がいて、西山さんにとって”憧れ”の場所だった。
**俺もVIPルームに入りたい! いつか自力で入ってみせる。動機はあくまでも不埒なものだが、早く社会に出て成功したいと思っていた。**おそらく将来的にも学閥に属せない私は、企業の出世コースを歩めるタイプではない。私にとっては、自ら起業することが、大成する近道なのだ。
祖業の不動産管理事業をしていた頃、社員にお金を盗まれ大量に辞めていった苦い経験から、人に過度に依存しない職人いらずで経営するにはどうすればいいか模索していた。そこで出会ったのがマクドナルドの本で、「職人不在のマクドナルド」という章だった。
食い入るように読んだ後、西山さんはマクドナルドへアルバイトしに行き、学ぼうとした。
「何を、どう売るべきかではなく、お客様にとって何がよいものか」
マクドナルドはいわば”顧客の満足”を問い続けているのだった。またその企業努力には、もれなく”社員の満足”という結果もついて回るのだと、私は実感した。
ひるがえって、我々の会社はどうだろうか?売り上げの数値という目標があるだけで、私たち売る側の都合ばかりをお客様に押し付けていたのではないか?
不動産業者としての私は、それまでどちらかというと、お客様の身になって物事を考えることをしていなかった。逆に、どうやってお客様をその気にさせるか。どうすれば早く契約に持ち込むことができるか。そんなことばかりに心を砕いてきたわけだ。つまりお客様という存在は、あくまでも攻略の対象。
とあるベンチャー企業の集まりに行ったときがきっかけに。
私の会社が今ひとつうまくいかない原因はこれだったのか、と思った。差別化を図ってこなかったために、私はいつも接待ばかりしていたのだ!
(中略)ゴルフに行ったり、お酒を飲みに行ったりと、接待漬けの毎日を送っていたのだ。当時はその見返りとして様々な物件の仲介をさせていただいていたわけだが、つまるところまるで下請け企業のような形で仕事を受注していたのだった。
差別化が図れていないために、当社は少なくとも「この会社でなくては駄目だ」という信頼から選んでいただける存在ではなかったのだ。
ここから差別化したいと考え始め、商品を持たないといけないという発想へ転換し飲食業をやろうとなった頃に行った焼肉屋が決定打に。そして経験無い中で、本を読んで開業していく。
マクドナルドでアルバイトしたときもそうだったが、ビジネス雑誌で得る最新情報が、とてつもない頼みの綱になるのだ。『焼肉屋』(旭屋出版)私が手にしたのは、普通の月刊専門誌だ。これが「牛角」1号店の前身となる「焼肉市場 七輪」の味の基礎になった。
(略)しかし、店はプロだからうまくいくとは限らない。大袈裟に言えば、それが私の理念である。プロにはない発想で、できる限りプロの領域まで味と技術を高めたい。何より食べに行く側の私が直感でおいしいと思うものは、きっとお客様の心を掴むはずだ。
いまは考えが変化しているかもしれないが、当時の考え。
店舗の物件探しに関して私は、焼肉店をつくることを発想した時点から確固たるポリシーを持っていた。「立地の善し悪しは問わない」
**もっと正確に言えば、二等地のほうがむしろ適しているのだと私は考えていたのである。中途半端にいい立地に店を開くと、店の実力以上の集客力を持ってしまうことがある。**つまり店に特別な魅力を感じないお客様までもが、妥協して、というかはっきりとした意思を持たずに来店してくださることになるのだ。
(中略)**差別化が完璧に図られている店には、立地に関係なくお客様が足を延ばしてくださるはずだと私は考えていた。**立地が悪いだけでお客様が来てくれないとすれば、それはまさに差別化ができていない証拠。やっても意味がないのだと思っていた。
店の悪口を言ってくれたら300円割引きの”情報収集”は、かなりの成果を上げることができた。お客様も珍しがってくださり、みなさん協力的だった。
ひとつ悪口を言ってもらえるごとに、我々はノートに”正”の字を書いていく。同じ悪口が5個たまり”正”の字が書けた時点で「即改善へ」と、話し合いを始める。
**5人ものお客様の意見が一致するのだから、すぐに着手すべき問題だ。**そうして我々がその問題を解消できたときに、お客様との新たな関係が始まるのではないかと思うのだ。
評価制度はさらに各々のモチベーションを上げる仕組みなのだ。**「あなたは、仕事をこうやったら、給料はこうなりますよ」そういう指針を明確にすれば、みな必死に頑張ってくれる。**そのことは私がかつてアルバイトをしたマクドナルドで実証済みだった。
また、管理指標を充実させて、フランチャイザーとしてオープンした店舗の現状がどうなっているのかまで、パートナーが数字で簡単に把握できるようにした。
管理指標と言えば売上収益に限るというのが一般的なところだろうが、サービスや料理の提供の速さ、店の清潔レベルまでも指数で示すようにしたのだ。
たとえば店舗ごとの「サービスレベルは?」「再来店者のパーセンテージは?」「感動・気配り比率は?」など、アンケートからポイントがはじき出される仕組みをつくっていった。
(中略)フランチャイズのスピード展開には、情熱だけでなく科学的な指標が不可欠だった。
「大切なのは、情熱と科学だ。パッションとサイエンスだ」と、私は社員やパートナーたちによく伝える。たまに「パッション、パッション、パッション」だけの人も出てくるが、それではうまくいくものもうまくいかない。
仕事とは、情熱と科学、そして想いと仕組みが両立して初めて成り立つものなのだ。「想いは手法の上流にあり」そんなキャッチフレーズも、根づいていった。
「仕組み、仕組み」と言っても、結局は想いがあるから仕組みが生きるのだ。仕組みだけで何とかしようとする人がいる。それではやはりうまくいかなくなる。なぜなら想いがなければ、仕組みが動かなくなるからだ。
また別のところでは、、
実現性の薄いことを根拠もなく話している社員に、私は言いたくなるのだ。「それは違うだろう?」と。夢見事も逆なら楽しいのだが、現実は決して甘くない。だから夢見事ではなく、現実的な理念を形にするために、我々は仕事をしている。大きな志を胸に、計画は緻密に。