この記事では人生に関するアドバイス及び財務的アドバイスを行っていません。
クリプト領域のプロダクトにおける重要な設計思想についてまとめてみました。
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「Aが増えるからAが増える」という現象をネットワーク効果と呼びます。辞書を引くと、ユーザ数の増加に対してのみ説明されているケースがありますが、クリプトの場合にはユーザ数だけでなくTVL, プロトコル自体など様々なものが対象となってネットワーク効果が発生します。
Uniswapの場合には、流動性提供をすると板の厚みが増し、それが製品としての価値になります。ユーザは板の厚い取引所をなるべく使いたいので、ユーザおよび取引が増加します。取引が増加すると手数料収益が増えるので、また流動性提供しようとする人が増えます。
また、Uniswapで取引ペアを追加したい場合にはXXX/YYYというトークンペアに紐づくコントラクトをユーザがDeployすることになります。このトークンペアが増えるほどルーティングの利便性が増すため、トークンペアという観点でのネットワーク効果も存在します。つまりトークンペアが増えれば増えるほどUniswap Protocolが便利になるということです。
EigenLayerでも、AVSが増えるほどRestakerの収益が増えるため、この2つの間でネットワーク効果が働いていると言えます。AVSが増える→収益が増える→Restakerが増える→AVSが増える。また、このように2種類のロールが存在する市場を両面市場と呼んだりします。
クリプトプロダクトの設計において最も重要になる要素がこのネットワーク効果です。
Blockchain業界にはオープンソースやコピーアンドペーストの文化が深く根付いており、それゆえコード自体がMoat(競合優位性)になることはありませんが、代わりにこのネットワーク効果がMoatとして機能することになります。例えるならば、Twitterがオープンソースになり、多くのコピー製品が登場したからといってTwitter自体が廃れてしまうようなことは起きないだろう、ということです。それはTwitter上にすでに存在する膨大なアカウントとコンテンツがMoat(堀)として機能しており、他社はそれを崩すことが難しいからです。
クリプトにおけるネットワーク効果の顕著な事例の一つはEthereumです。2018-2022にかけて高速・低手数料を謳う多くの新規L1プロジェクトが資金調達を行い、Ethereum Killerとして期待されていましたが、それらのローンチ後は結果としてEthereumの時価総額やユーザ数を抜いたりすることはありませんでした。これは、単にコピーするだけでなく、高性能高機能を搭載したプロダクトであったとしてもネットワーク効果には勝てないということの証左です。Ethereumには膨大な既存ユーザ・TVL・アプリケーション・開発者がすでに存在しており、ネットワーク効果が十分に機能しました。同様に、UniswapとSushiswapの対立に関してもネットワーク効果がMoatとして機能しました。SushiwapはUniswapの流動性を$SUSHIトークンを配ることで奪おうとしました。一時的に大部分のTVLを獲得しましたが、結果的に現在ではUniswapに軍配が上がる形になっています。(もちろん、ネットワーク効果だけでなく信用の蓄積やブランディングといった面でのMoatがあることにも同意します。)
ネットワーク効果の問題の一つにブートストラップの難しさがあります。Twitterについて考えてみると分かるかもしれませんが、例えばアカウントが10個程度しか存在しないTwitterを使いたいと思うでしょうか?何十万何百万とアカウントが存在していて常に面白いコンテンツがそこにあるからこそさらにユーザが増えてくると思いますが、プロダクトとしては初期のアカウントが少なく全く面白くないフェーズを乗り越えなければいけません。
a16zのChris Dixonはネットワーク効果のブートストラップ問題はトークンのインセンティブで解決できるだろうと説いています。
つまり、プロダクト自体の効用が低い初期フェーズにおいて、トークンインセンティブを付与することでユーザ数やコンテンツ量を増やしてしまおうということです。
現実の世界では実際にトークンのインセンティブをつけなかったとしても、エアドロップ期待だけで多くのユーザがプロダクトを利用するようになっています。また、このインセンティブのコントロールは非常に難しく、完全に成功といえるケースは少ないように見えます。これはChris Dixonの説が間違っているわけではなく、各プロダクトの設計者がインセンティブ付与対象のアクティビティをうまく設定できていなかったり、トークンの分配方法に問題があるように見えます。
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正の外部性とは、そのプロダクトが外部のプロダクトに対して正の影響を及ぼす性質です。これはサービススタックとして横に積むのか上に積むのかという図で整理できます。
実はあまり多くを語られませんが、重要な設計思想です。例えば、Uniswapの流動性提供を自動で行うGammaは、UniswapのTVLを増加させる側面があるため正の外部性を持つと言えるでしょう。他にも、UniswapのサードパーティFrontendを独自に作成することもそれに該当します。対して、SushiswapのようにUniswapと同様の製品を出荷してTVLを奪うような負の外部性を持つものも存在します。ただし、注意したいのはUniswapから見て負の外部性であるというだけであり、俯瞰して見ればUniswapの集権化を防ぐ分散化の役割および、ユーザに対して別のサービス利用オプションを提供しているとも見れます。(とはいえ、個人的に美しいと思うのは正の外部性の方です。)
別の表現をすると、これから作るプロダクトを、すでに存在するプロダクトのアプリケーションとして作成する(上に積む)のか、競合として作成する(横に積む)のかという違いに相当します。横に積むということは同じレイヤーの製品同士で何らかの有限のリソースを奪い合うことを意味します。DeFiの世界においては多くの場合でTVLを奪い合います。DAOの場合は未だ発展途上ですがおそらくコミュニティの数, 質, アウトプットの量といったコミュニティリソースの奪い合いでしょうし、ミームコインで言えばマインドシェアの奪い合いです。
このようにして、開発するプロダクトを既存領域の競合として置くのか、それとも正の外部性を重視して新たなアプリを生み出すのかを深く検討する必要があるでしょう。
Fat Protocolとは、Blockchain領域ではProtocolほど価値を獲得する構造・現象のことです。
ここから下がプロトコル、といった明確な区別はありませんが、連携する製品が多ければ多いほどProtocol的であると言えると思います。もっとも基盤となるものとしてはBlockchainが存在し、その上にステーブルコイン、その上にDEXといったような構造が思いつきます。
下に位置するほどプロトコル的であり、より価値を獲得するはずです。そして、それぞれのサービスのトークン時価総額を確認すると、実際にそのようになっていることがわかります。完全にこのルールに従うわけではなく、傾向として考えてください。
これは、既存Webサービスの構造とは逆転しています。Google, Apple, Amazon, Facebookといったビッグテックはアプリケーションレイヤーに位置し、それらが市場の多くの価値を獲得していますが、Blockchain領域においてはアプリケーションよりもProtocolが価値を獲得します。様々な理由がありますが、大きくはトークンが存在することが理由だと考えられます。これまでのインターネットの基礎技術はオープンに開発されており、価値を表現する存在がありませんでしたが、Blockchainを使ってトークンを発行することにより、Protocolの価値を表現できるようになりました。
Fat Protocol理論ではざっくりと以下のように述べられています。Protocolのトークンの価値が上がる→初期の投機家、開発者、起業家の注目を集める→彼らが資金投入する→アプリが増える→Protocolのトークンの価値が上がる
ただし、この現象は現在の潮流と一部異なります。Fat Protocol論では、Protocolが獲得した価値をApplication Layerへ還元することまでは言及しておりませんが、OptimismやNounsはその上に乗るアプリケーションに対して投資(価値をアプリケーション層に還元)を行っています。(後述)
Fat ProtocolではProtocol層における現象に主眼が置かれて語られましたが、同じ著者がThin ApplicationというApplication層を主語にした予測を広げています。
Thin Applicationとは、クリプトのアプリケーションは通常よりも迅速かつ安価に立ち上げることが可能であろう、という予測です。
この予測の理論として、クリプトのProtocolレイヤーでは多くの機能が提供され、Applicationレイヤーではそれらを簡易的に統合するだけでサービスを立ち上げることができるため、これまでのWebサービスよりも低コストかつ迅速にそれが実行可能となるであろうと言うことです。ユーザから見た時にも、そのユーザの資産やデータはProtocol層でキャプチャされている(UniswapやENSを参考)ため、複数のApplicationに渡ってすぐに乗り換えることが可能です。これは、GoogleやAppleといったサービスがユーザデータを独占する既存のWebサービスとは対照的です。
Fat Protocol/Thin Applicationの肉付けとしてLi JinによるMulti-Hit Wondersの論説があると思います。
この論説では、消費者向けアプリが連続的に作成され、その都度バイラルとともに収益をあげていくビジネスモデルについて述べられています。つまり、アプリ開発者はアプリA, アプリB, アプリC,…といった様々な消費者向けアプリをベンチャースタジオのように連続的に立ち上げ、その迅速なサイクルを回すことで複数の仮説を検証していくべきだ、ということです。これはThin Aplicationの構造を持つクリプトだからこそ可能になるビジネスモデルとなる可能性があります。既存ではSupremeやMSCHFが似たような戦略を取っています。
これまでに説明したFat Protocol/Thin ApplicationおよびMulti-Hit Wondersの論説に対して、OptimismやNounsの事例を参照してみたいと思います。
Optimismは、L2上のサービスに対してその活躍や貢献に対して$OPトークンを遡及的に分配してきました。
これは価値を獲得したProtocolレイヤーがApplicationレイヤーへ投資を行っているということです。この現象まではFat Protocol論では言及されていなかったため、それらを一歩発展させた形でのガバナンスです。そしてこれは非常にうまく実行されているように見えます。
また、Multi-Hit Wondersでは、一つのチームが複数のアプリケーションを作成することを述べていましたが、Optimismの例では、投資という行為で他社に複数のアプリケーションを作成してもらっているように見えます。アプリケーションの作成主体が、一つの会社であるか複数のサードパーティであるかという違いですが、作成されるアプリケーションの数や多様性においてOptimismの例の方が優れているように見えます。但し、このアプリケーション層への投資と多様性を実現するためには多くの努力やモメンタム、タイミングなどの要素が絡むため、再現性を求めるのはかなり難易度が高そうです。つまり、Multi-Hit Wondersの言説の通り、一つの会社で複数のアプリケーションを作成することは未だオプションの一つとして有り得ると思います。
同様に、NounsにおいてもTreasuryに蓄積されたETHはNounsを活用した様々な取り組み(Application)に対して分配されています。
これも、Protocolレイヤー側が取れるMulti-Hit Wondersモデルだと考えることができるでしょう。Protocolレイヤーを作成し、それをApplicationレイヤーに還元するようなビジネスモデルをもとして筋の良いプロダクト戦略を作れるかもしれません。
Hyperstructureとは、メンテナンス、中断、仲介者なしで無料かつ永久に実行できる暗号プロトコルのことを指します。
Hyperstructureには次のような要件・特徴があります。
止められない: プロトコルは誰にも止められません。基盤となるブロックチェーンが存在する限り実行されます。
無料: プロトコル全体の料金は 0% で、ガス料金で正確に実行されます。
価値のあるもの: 所有することに非常に価値があります。
拡張性: プロトコルの参加者に対するインセンティブが組み込まれています。
許可なし: 誰でもアクセスでき、検閲に耐性があります。ビルダーとユーザーはプラットフォームから排除されません。
プラスサム: 参加者が同じインフラストラクチャを利用できる双方にとって利益のある環境を作り出します。
信頼できる中立性: プロトコルはユーザーに依存しません。
詳細な内容については記事を参照することをお勧めします。
誤解ないように記載しておくと、無料であるというのはHyperstructureを使用する時にユーザ側で手数料がかからないとか無料であると言うことではなく、運営するのに事業主体側でコストがかからないということです。つまり、Hyperstructureとは運営が全く何もしなくてもBlockchain上で稼働し続け、価値を提供し続けるサービスであるということです。
記事内ではHyperstructureの代表例としてUniswapが挙げられています。UnsiwapはFrontendとBackend(Protocol)と、構造的に大きく2つに分けることができます。Protocol層は完全にオンチェーンとして稼働しており、国であっても止めることができません。この部分をHyperstructureとしています。
逆を言うと、Frontend側は自由にサードパーティによって構築することができます。Protocolはいくつものインターフェースを許容しており、それぞれのApplicationで使われ方や見せ方を調整することができます。例えば、KYC付きのDEXを提供したいとした場合には、KYCの機能をFrontend(Application)側で追加して提供することもできますし、仮に何らかの形で検閲が入った場合でもProtocolではなくApplication側が影響を受ける形になりますが、複数のApplicationが存在するため全体として頑健(Robust)もしくは反脆弱性(Anti-fragile)があります。
この記事では取り上げられていませんが、NounsもHyperstructureの一つだと考えられます。とにかくHyperstructureとはそれを立ち上げてから、(ある程度軌道に乗るまでは)基本的に運営が関与せずとも稼働し続ける永久のプロトコルであり、クリプトの世界ではひとつの目標になりうる概念です。プロダクト設計者としてはHyperstructureを作ることが夢であり、聖杯なのです。
クリプトの世界ではOSSのナラティブが受け継がれています。
しかし、OSSは収益化が難しいという大きな問題を抱えています。
その解決策としてトークンの利用が挙げられます。
これまではOSSは非常に価値がありながらもその収益化や価値の表現方法がありませんでしたが、Blockchain上でトークンを発行することでOSSであっても価値をキャプチャすることができます。
Uniswap(V2)はオープンソースであり、トークンを発行しています。そして$UNIトークンは実際に価値がついており、高い時価総額があります。これはFat Protocolとも通じる話ですが、Protocolとして機能するサービスがその認知や利用を拡大するにつれて、対応するトークンが価値を獲得していくと言うものです。個人的な意見ですが、このトークンに対するユーティリティやひいてはガバナンス権利ですら無かったとしても価値を獲得すると考えます。それは、あなたが過去に任意のトークンの購入を決定した時に、ユーティリティやガバナンスのありなしを考えましたか、という問いです。トークンの価値とは、モメンタムや話題性、なんとなくのイケてる感、といったものを大きく反映しているように感じます。
そのため、ProtocolとなるサービスがどれだけPropagation(伝播)されているかという要素が大事になります。Propagationには、インターネット上での拡散もありますが、広くはどれだけApplicationとなるものがあり、どれだけ他サービスを連携しているか、といった要素も含んで考えます。
上記の考え方を、これまで価値の表現方法がなかった他のものにも当てはめることができます。
ミームコインやNFTはその例です。
これまで、宗教や思想、ミームといったものにはそれに紐づく価値表現方法がありませんでしたが、それを可能にしたものがミームコインだと言えると思います。ミームコインというトークンが中心に存在しており、それに紐づく思想やミーム性がPropagationされることで価値を獲得していくことができます。
同様に、ネット上の画像の価値を表現する方法はこれまでにありませんでしたが、NFTがそれを可能にしました。ネット上ではコピーアンドペーストが容易にできますが、例えばミーム画像がSNSにペーストされまくるとそれはPropagationに相当します。つまり、NFTとはコピーアンドペーストを奨励するものであり、それによってより価値を獲得することができるのです。この点に関してよく「NFTはコピー防止技術だ」と言われることがありますが、むしろ逆です。その証左として様々な例はありますが、かぼすちゃんのNFTが挙げられます。クリプトの世界では最もコピーアンドペーストされ、あらゆる人が認知をしている画像だからこそ価値がついたのです。
これまでにまだ価値がつけられていないものに着目し、それをトークン化することで新しい市場を創出できるかもしれません。
クリプトのイデオロギーとして非中央集権があります。これは資産や権利を持つEstablishmentへの抵抗の文化であり、それが製品に現れることがあります。
つまり、持たざる者がみんなの力を合わせてでかい存在に勝つ構造です。
例えば、PartyDAOは以前にみんなで参加するオークションという製品を立ち上げました。これは、不特定多数の人が資金をすこしずつ持ち寄って、オークションの商品を競り落とすということができます。これは、一人のお金持ちvs多数の持たざる者という構造です。
この時に、持たざる者が集まることで**人数(量)**という武器を手にすることができます。それは、前述したネットワーク効果を意味します。
つまり、クリプトとはそもそも持たざる者(リテール)のための技術・文化を持ち合わせているのです。
これはDeFi領域においても同じです。
複数のDeFi製品があり、個別で見たら小さなサービスですがDeFi全体として連携し、ネットワーク効果を発生させることで既存金融領域に勝とうとしています。
一つ一つは小さくても集まって勝つのです。
同様の構造としてはICO, Lido, Basepaintなど様々あります。
ICOは「みんなでVCやる」
Lidoは「みんなでお金集めてnode運営やる」
Basepaintは「みんなでお絵描きする」
本来一人で行うことや、特定の選ばれた者しかできないことをみんなで集まってできるようにするような製品はクリプト的であると言えると思います。
かつ、それがネットワーク効果を発生させてこれまでにないアウトプットを生み出すことができるのであれば素晴らしいプロダクトと言えるでしょう。
クリプトではインセンティブという指揮者によって、ユーザが管理・調整(Orchestrate)されます。
代表例としては、UniswapのLPが、トレードの手数料収益をベースに増減するような構造であったり、BitcoinのマイナーがBTCというインセンティブを軸にnodeが増減するような構造です。
少し本題からずれますが、本来のDAOとはこのインセンティブによって調整されたユーザの総体を指すものだと思います。つまり、BitcoinのMinerとユーザや、UniswapのLPやトレーダーなどのようなものの全体を指す言葉だと思います。
そのため、一般に考えられているようなProposalを上げる→トークンによる投票→実行といったプロセスを実行する組織体は本来のDAO意味からはより遠いものだと思いますし、これは人力によってのみ動く組織であるため、ほとんどのケースにおいてオンラインサロンやファンコミュニティのようなものです。
Vitalikによる以下の記事から本来のDAOの定義を確認してみましょう。
DAOs == automation at the center, humans at the edges.
(和訳)DAOs==中心は自動化、端は人間
この記事ではBitcoinが最もDAOに近い存在であると述べています。DAO内の人間同士でコミュニケーションや議論が行われるべきかといった部分には言及がなく、投票といった話もありません。自動化されたものによって人の行動が調整されているかどうかだけです。これは、スマートコントラクトやBlockchainのコンセンサスメカニズムなどの機械によって実行されるコンポーネントを中心に、人の行動が規定されているかという観点からDAOかどうかを判定できます。つまり、UniswapにおいてはトレーダーやLPがDAOの参加者であり、Bitcoinであればマイナーやユーザが参加者です。よくある「Treasuryが中心にあり、その運用方針を投票によって決めるような組織」もDAOではないと言い切れるわけではありませんが、中心の自動化があまり強くないためややDAOからは遠い存在に見えます。人力によってのみ存続する組織なのであれば、それはおそらくオンラインサロンや、ファンコミュニティのほうが概念としては近いでしょう。
(しかしまあ、現実での用法のほうが一般に受け入れられやすいので、本来の用法はあんまり使われなくなってくんでしょうね。とはいえ、なるべく機械(Blockchain)に組織を運営させよう、そのほうが検閲体制あるよね、という話があることは理解しておいてください。)
良いプロダクト設計の一つに、資産を持つ人と資産を運用する人を分ける構造があります。
代表例としてはAxie InfinityのScholarship制度があります。Axie Infinityを開始するためには高額なAxieを保有している必要があり、ゲームへの参入障壁が高い状況がありましたが、このScholarshipを導入することでゲームプレイヤーはAxieをレンタルすることでゲームを開始できるようになり、東南アジアを中心に爆発的にユーザが増えました。
これは、ゲームをプレイするとトークンがもらえるため、発展途上国などで広くアダプションしたのだろうと考えられます。このトークンインセンティブはゲームプレイヤーとAxie提供者の両者に付与されます。これは、Axieの持つ資産性とユーティリティを分離することに相当しますが、資産として持ちたいユーザと、ゲームを遊びたい(ゲームで稼ぎたい)ユーザを分離しており合理的です。逆に、参加するために多くのお金とゲームプレイの両方を求めることはターゲティングユーザを狭めるため非合理的です。
また、ゲームプレイに関してはそもそもがクリプトのユーザである必要はなく、従来のゲームプレイヤーであっても参加が容易であるため、Non-cryptoユーザをターゲティングに含めることができます。
クリプトサービスのマスアダプションにおいて非常に有効なプロダクト設計の構造と整理することができそうです。
また、同様の構造としてEigenLayerがあります。分散型コンピューティングを行う上で、資産を持つことと、nodeの運用の両方を求めることは合理的ではありません。むしろ資産を持つ人は資産を預け委任することだけ、nodeを運用できる人はnodeを運用することだけに集中させロールを分けることのほうが合理的に見えます。
このようにして、サービスを構成するロールをうまく分割することで、プロダクトを円滑に機能させることができます。また、Non-cryptoユーザも巻き込むプロダクト作りにおいては重要な設計思想になる可能性があります。
(Assetが消費されるので厳密には違いますが、VCとStartupも似たような構造です。)
これまでのUniswapの説明の中でも登場しましたが、Blockchain上で稼働するシステムとそのInterfaceを明確に分離しよう、という設計思想があります。
これは、大き分けると2つの分散型に対する考え方を反映しています。一つは、Blockchain上のシステムは検閲されない、壊れない、止まらない。もう一つは、Blockchainの外側のものは1,2個くらい壊れても全体として維持できればいい。という考え方です。イメージとしては、Backend(Onchain)側は固く壊れないけど、Frontend(Offchain)側は柔らかく個別で壊れやすくても全体が維持してればOKという感じです。
(ここでスクロール止めた人は振り出しに戻って最初からしっかり読むように。)
例えるならば、下は硬いパイ生地で、上には柔らかいクリームやフルーツが乗ったタルトです(かわいい)。
代表例はUniswapです。
UniswapはProtocol(Onchain)とInterface(Offchain)を明確に分離しています。Document上での説明を参照してみましょう。
Uniswap インターフェイス: Uniswap プロトコルとの簡単な対話を可能にする Web インターフェイス。このインターフェイスは、Uniswap プロトコルと対話できる多くの方法のうちの 1 つにすぎません。
つまり、Uniswapはサードパーティによるインターフェースの作成を許容しています。okuなどはサードパーティの例です。具体的には、Uniswap公式のインターフェースでは手数料を取得しますが、okuでは手数料を取得しない、という違いがありますがBackendで使用しているものはどちらもUniswap Protocolです。このようにして、本質的な機能はBlockchain上のサービスとして稼働させ、付帯的な機能やUIに関してはInterface側で担うような設計になっています。これによって、Uniswapが仮に国から停止を命じられたとしてもProtocolは仕組み上削除は不可能であり、公式のInterfaceが削除されるのみです。しかし、サードパーティが複数のインターフェースを構えているので全体として頑健(Robust)もしくは反脆弱性(Anti-fragile)があります。
他にもLiquityも同様にFrontendの多様化を促進しています。
このような設計は真に検閲体制が必要なサービスにおいて重要になってきますし、Blockchainだからこそ可能なプロダクト設計です。(タルト構造は勝手に名前をつけました)
なぜ遅くて不便なBitcoinの時価総額がこれほどまで大きく、常に1位なのでしょうか。Bitcoinだけではなく、他のBlockchainやdAppsにおいても同様の事象があります。不便だけど一番最初に作られた(厳密にはネットワーク効果を発生させた)プロトコルが、常に時価総額の上位にあります。
既存ビジネス領域では後発優位ですが、Blockchainの世界では先行優位がとても大きいです。それは、信用やネットワーク効果、ブランドがMoatとして機能しているためだと思われます。コードはコピーできますが、コミュニティや信用はコピーできません。そして、時間の試練に耐えてきたProtocolには信用が蓄積されており、この経過した時間を超えることは後発には不可能です。
これは絶対の法則ではなく、傾向です。最初にネットワーク効果を発生させ、アダプションしたサービスに対して、後発で挑み勝つのは既存領域よりも難しいです。つまり、Blockchain領域では新しいプロダクトを開発することが奨励されます。#2で言及した正の外部性の図を思い出してください。市場原理として競合が生まれてくることは自然ですが、新しいプロダクトを作ることのほうがLegitimacyがあり、インセンティブがあります。
最後にクリプトのカルチャーに関して説明しようと思います。このようなカルチャーを踏まえてプロダクトのデザインやvibesに落とし込めるとよりユーザに刺さる可能性があります。
これまでに述べてきたように、クリプトは持たざる者のための技術でありその文化や思想が強くあります。近いものとしてストリートカルチャーやカウンターカルチャーがあります。
スケートボード
ラジカセ
ストリートアート
スニーカー
ステッカー
HIPHOP
黒人文化
自分の中ではこれらのものとクリプトの相関が強いです。
またこのような文化はクリプトが盛んなアメリカ西海岸の文化とも関連しているように思います。STEPNがヒットした要因にはスニーカーというストリートカルチャー的な親和性もあったのかなと思っています。
お金で成り上がっていく、というナラティブが強調されているのもHIPHOP的でストリート的です。また、Establishmentへの抵抗という思想も共通します。
だからこそ良くも悪くも、カルチャー的には既存の大手企業や起業家が参入しづらく成功しづらい市場であるのだと思います。また、考え方も既存のビジネスとは逆になることが多いです。
クリプトに興味を持っている層として、GenZだけではなく、Web 1世代も含まれているように感じます。それは、ナラティブ的に非常に近いことが要因にあるのではないかと思います。
90sのWeb 1時代は、GAFAといったビッグテックがまだ存在しておらず、インターネットがボトムアップで作り上げられてきたナラティブがあります。おそらく、今のクリプト領域にも似たような雰囲気を感じ取っているのでしょう。当時のWebサイトのUIを見てみましょう。
なんだかちょっとクリプトのvibesを感じないでしょうか?また、次にいくつかのクリプト製品のUIを見てみましょう。
オールドスクールな90s Internetのvibesを感じます。
また、クリプト好きな人は日本文化も好きなケースが多いと感じることがあります。これは、90sインターネットの中心が日本のオタク文化だったことともリンクします。
クリプトのプロダクトを作る時に、このようなカルチャーやVibesの理解があるとよりコアに刺さる製品が作れるのではないかと思います。
表題はニュートンが書いたPrincipia(自然哲学の数学的諸原理)から取ってきました。