先日7月16日20時〜20時20分、TBSラジオで放送されたテンカイズ。事前収録された際に、先方からお送りされた質問に対する回答を原稿として用意しておりました。番組中では、この原稿の3割くらいしかお話しできませんでした。せっかく原稿を用意したので、こちらに残しておこうと思い、掲載いたします。
番組サイトはこちら。
Podcastにもなっており、Spotifyのサイトで視聴できます。
さて、原稿をばご紹介。原稿自体は6月上旬に作成しております。
テンカイズ側からの質問に「▼」がついております。
▼まず、樋田さんの普段の活動から聞かせて下さい! (「ブロックチェーン戦略政策研究所」って、何をされているところ?!)
研究所と名前がついているので、ブロックチェーン自体の研究をやっていると思われがちなのですが、実際は、2つの事業を行なっております。ロビー活動とコンサルティングです。1つ目のロビー活動はこれまでJBA(日本ブロックチェーン協会)でやってきたように、政治家の先生や官僚の方々へブロックチェーンに関する政策提案等を行っています。それはほぼボランタリーな活動になっているので、稼ぎがありません。そこで、これまでの長い経験を活かして、コンサルティングもやっております。ブロックチェーン企業やこれからWeb3サービスを展開される方々の相談等を受けてお答えしたり、必要な組織や人へお繋ぎしたりしております。こちらで収入を頂いている状況です。その他に、縁があって、石川県加賀市さんと昨年12月にWeb3に関する連携協定を結ばせていただきました。加賀市では、Web3の拠点作りや人材育成についての事業を取り組ませていただいております。実際に1ヶ月に1週間滞在して、市役所の方々だけでなく、様々な市民の方々と交流しながら進めております。実際は毎晩のように一緒に飲みにいったりしていることが多いのですが笑
▼冒頭でもお伝えしたんですが、樋田さんは「ブロックチェーン・暗号資産」と 「政治・法律」って、どう捉えていらっしゃいますか?
「暗号資産」という分野は、記憶がおありかもしれませんが、2014年2月に当時世界一の交換所であったMtGoxが破綻したことから始まります。MtGox事件では、全世界で債権者が約2万人と当時としては大変大きな事件でした。しかし、日本人の利用者は2000名程度でした。その後、我々はJADAを設立してロビー活動を開始します。メンバーは今では大手の交換所になっているbitFlyerやCoinCheckの創業者らとともに5社でスタートしました。事件を受けて、消費者保護を第一にした法整備を 行うための働きかけを実施しました。結果、2016年の国会で成立した改正資金決済法で暗号資 産交換所に関して法整備がされました。その後、残念なことですがハッキングのような事件・事故等が発生しました。その後、2度法律が改正されております。
取引所への法整備だけでなく、暗号資産に対する信用取引に対してや、ブロックチェーンの技術を活かした資金調達方法であるSTO(セキュリティ トークン オファーリング)、そしてちょうど今月から施行されたステーブルコインの法律などがあります。
ブロックチェーンは、様々な技術を統合させた形での大きな技術です。昨今話題になっているNFTやDAOなどは、ブロックチェーン上にて価値や権利、利用権などをトークンというものに表してインターネット上で流通可能にして新しいことをやってみようというものです。価値を扱うということは、サービスを提供している企業または組織は、利用者の資産を預かるような形になると思います。最初のMtGox事件からみえるように、何か事故などが起こった時に、その利用者は守られなくてならないと思っています。特に日本でのステーブルコインのルールは、裏付けとなる資産をしっかり事業者に管理させることが求められています。
元々Bitcoinから始まった世界で、特に価値を収めておくウォレットは自己管理が前提だといわれている原理主義的な話もあります。もちろんそういう世界観が好きな方が自由に利用されることもありなことだと思います。法律とは関係なく利用したいというリバタリアン的な人が、コアで数少ないですが、いらっしゃることも理解しております。Bitcoinも元々はリーマンショック事件の既存金融機関の傲慢さを受けて、造られたとも言われているのでそういう思想的背景があることもよく理解しております。
しかし、一般の多くの方々は、保護された金融サービスを利用して、安心感をもって利用されているのが現状だと思っております。そのような人たちへ、ブロックチェーンおよび暗号資産を使っていただくためには、消費者保護(利用者保護)を第一にしたサービスの提供が大事になってくると思っています。
▼よく「法整備が・・」なんて話を聞きますが、日本って「遅い」の??
難しい部分ですが、大きく遅れていることはありません。よく比較される、アメリカやEUなどと比べても議論や法整備が遅れているとは思っておりません。そう言っている人の中には、税制の部分で各国よりも高い税率のために、なんとかしろ!とおっしゃっている方もいらっしゃると思いま す。
昨年のFTX事件を受けて、アメリカでは厳しい法制度が必要だという声が大きくなっております。FTXの事件自体が、大きなショックを与えました。つい、ここ1週間だけでもSEC(米国証券取 引委員会)が、世界でNo1といわれたBinanceとCoinbaseを相次いで、提訴している状況です。 EUでも暗号資産に対する法整備を進めております。
日本では、2016年から法整備をしてきて、また新たなブロックチェーン技術を受けて、法改正などを進めてきております。担当官庁である金融庁などでも議論をみていても、すごく遅れているという認識はありません。
どの国や地域でも、すぐに新しい技術に対する法整備というものは進むものではありません。 やはり最低限2〜3年の時間を要すわけです。
▼これまで樋田さんや業界団体の働きかけで、暗号資産・ブロックチェーン領域で、 政治や規制に大きく影響があったと考えられる印象的な事例は?
今週も日本政府の成長戦略である「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023」にも、「Web3.0の推進に向けた環境整備」という項目が入りました。これは、昨年から自民党デジタル推進本部で設けられた「Web3PT (当初はNFTPT)」の活動が大きく影響していると考えております。平将明議員が座長となり、デジタルにも詳しく政策をしっかり書くことができる先生が集まって、かなり頻繁に会議が開催されております。このWeb3PTから発表された「ホワイトペーパー」といわれる政策集が、先ほどの政府の戦略の大元になっております。
これまでの法整備では、官庁での有識者会議や研究会などで1〜2年専門家が議論して、「答申」といわれるような政策を進めるための意見のとりまとめをだして、そこから国会へ法律を提出して、、、法整備されるまでにすごく時間がかかっておりました。今回は、ブロックチェーンのような新しい技術であるので、官庁の方々もキャッチアップはがんばっておられますが特に詳しい人が多くいるわけではないので、政治主導で専門家を集めて素早く政策集としてとりまとめ、政府に提案して進める形になっています。ある意味、各国との競争でもあるので、実際に言葉だけではなく政治主導でスピード感を持って進めていることが大きな特徴です。
このような進め方は、各国当局の方々からも注目されています。特に、先ほど話した通りアメリカの厳しい規制をしていくような状況と比べて、日本ではWeb3を新たな成長戦略として捉え、政府、役所、民間それぞれのレベルで大きく後押しをしております。これは驚くべきことです。
▼ひとことで「政治」と言っても、「ロビー活動」みたいなものも あるんじゃないですか?それは、どうやってすべき? (どこの、誰と話せばいい?やはり政治家?官僚?)
私も9年前に、協会を設立するまでロビー活動などやったことはなかったので、やりかたもわかりませんでした。当時仮想通貨を扱っている自民党の先生は、平井卓也先生と福田峰之先生でした。私は福田先生の秘書さんから手解きを受けました。とてもありがたいことでした。
一般的に政治家へのアクセスはとても遠いと思いますが、実は問題などがあることをちゃんと聞いてくれる存在だと思っております。もちろん国会議員を知っている方は少ないかと思います。 そこで自分が住んでいる地元の市議会議員や県議会議員の方へコンタクトすることから始めるのが良いと思います。それらの議員さんは、必ず国会議員へつながっておりますので、国家的な問題であれば、紹介していただけると思います。
個人や個別の会社の利益になるような形のお願いですと、政治家の利益供与の可能性があ るので、必ず団体または組織で向かうのが良いかと思います。この団体自体は、少ない参加者でも問題ありません。団体から問題を課題提起されることが大事です。ある意味業界団体のxxxが申し出ているという形であれば政治も行政も巻き込みやすいということです。先ほど行った利 益供与ではなく、その業界ひいては国民的な問題であるといえることが大事です。
また政治と行政の関係性を利用することも大事です。国民主権国家では当たり前の関係性ですが、一番上が国民、その下に政治家、一番下が行政という関係性を把握していることが大事です。行政側の官僚の方は、政治家から電話一本で呼び出されて説明を求められるような関係性であるということです。昔から行政は「お上」と言われて、行政の下に国民がいるという見方をされがちですが、国民の代表の政治家が行政をしっかり主導していくという関係性なのです。
問題がある場合、多くの方は、その行政の窓口に相談してしまうと思います。もちろん個別問題であれば、こちらで良いかと思います。しかし、我々が取り組んでいるような国家的な法整備が必要な問題は、まずは政治家である国会議員に相談することが大事になります。そして、政治家から担当している行政を紹介してもらって話にいくわけです。一般的に行政の窓口相談では、一番下の方が対応されますが、国会議員からの紹介の場合、その行政の幹部が出てこられ、国会 議員の方の意向を踏まえた対応をしていただけることになります。一般的な窓口相談から少しずつエスカレートして問題を解決する場合に比べ、この形で進めることでかなりスピード感を持って進めることができます。
▼そもそも、この場合の「ロビー活動」って、どんなものを差すんですか??
辞書を引くと「企業や団体などが、自らに有利な方向へ政治が展開していくようにと、政治家へ働きかけること(実用日本語表現辞典)」という意味だそうです。アメリカでは、およそ3万人のロビイストが存在すると言われ、法律でロビイストとしての登録を行うことが義務付けられています。 日本では特に登録等はありません。
ブロックチェーン分野では、いくつかの業界団体があり、それら団体がロビー活動も実施しております。弊社BSPIは、それら団体とも連携しながら独立してロビー活動を実施しています。界隈 の問題を素早く政治家の先生方へお伝えして、解決に向けてルール整備などを行っています。
一般的なロビー活動は業界団体の後ろからサポートをされることが多いですが、弊社は自らやっているので、伊藤穰一さんからは「ソーシャル インパクト ロビーイスト」って名乗った方が良いというアドバイスもいただきました。
▼また、ロビー活動を行う上で大切なポイントは?
さきほどもお話しましたが、国民、政治家、行政の関係性を把握することが大事です。気遣いの気遣いをする世界です。その関係性をしっかり把握して、進むべき方向に必要な政策を提案していくことだと思います。そして、政治家との間はもちろん、行政側との間でも信頼関係を構築することだと思います。とても地味な作業の連続ですが、その信頼関係こそが大事だと思います。これはどんな仕事でもいえることかもしれません。
また、国民側である一般市民の方の動きを把握することも大事だと思います。業界団体は、企業の集団になっているのでどちらかといえば、サービス提供側の論理で進めがちになってしまいます。私は、サービスを利用する一般市民の方の感覚やどのような形で彼らを幸せにできるかを常に考えております。
ある日、東京から郊外へ向かう電車に乗っている時、一面住宅街を見ている時、思うわけです。私のような人間が、ここに住んでいる多くの人たちの方向性をある意味決めるお手伝いをさせて頂いているのだと。そして、その人たちにいつか利用してもらうサービスを問題がないように作っていかなければいけないなと。そして、このブロックチェーン産業が日本の1つの大きな産業 になっていくことができれば、今後の日本全体の経済の活力になるのではないかと。こういうことを思い巡らすことがあります。
▼日本のweb3領域の政治や規制の現状をどう捉えていますか?
10年ほどこの業界を見てきて、とても良い状態だと思っております。以前にも増して、日本政府の成長戦略の1つとしてWeb3を位置付けていただいたことは、今後の日本の1つの産業として、 政治側からの大きな後押しだと思っています。
先ほども申し上げましたように、法整備には数年の時間を要します。一方ブロックチェーン技術やサービスは、日進月歩のスピードで展開されています。そのスピード感に規制や法整備側はで きるだけ合わせていく必要があります。一度法整備してそれで終わり、ではなく、常に議論を行い、新しいことにキャッチアップして、ルールを常に見直ししていく姿勢が大事だと思います。このような対応を行うには、現在の政治主導という形は大変マッチしていると考えています。
アメリカやEUに比べて負けているわけではないです。
▼現状の業界団体や事業会社側が、より政治に対してすべきだと思うこと、 改善すべきことはありますか?
もっと頻繁に説明などをする機会を増やしていくべきだと思います。応援団は多い方がいいことは昔から変わっていません。いくら反対の思想をお持ちになっていても、まったく話を聞いてくれないということはありません。そして、ブロックチェーン技術は、インターネット技術と同様にインフラ技術なので、ありとあらゆる分野に関わります。そのため、繰り返し、繰り返しやることになりますが、根気強く多くの政治家や官僚の方々へ説明して理解していただく活動を続けていくべきです。
もう1つは、幅広くという点です。今担当官庁は主に、金融庁、デジタル庁、経済産業省、総務省あたりになりますが、私はそれ以外の官庁や関係団体にもアクセスして、説明をしていくことも大事だと思っております。私が当時JBAの事務局長の時代は、外務省や国民生活センターなどへ行って説明などを行なっておりました。そして、海外の業界団体との交流もとても大事になります。現状、業界団体ではあまりこのようなことができていないようなので、お手伝いできればと思っております。
▼ブロックチェーン・暗号資産と「政治・法律」。今後のテンカイは?
日本国内での状況はしばらくの間、明るい方向だと思います。政治からの後押しもあり、大企業もWeb3の事業を展開するニュースは毎日のように出てきています。これを一過性のものではなく、文化まで昇華していけるようにせねばなりません。まだまだ先は長いと思っています。
2023年7月23日
樋田 桂一
最後にに断っておきます。このBlog記事は、現在私樋田が所属する団体および組織とは無関係であります。私個人としての文書であります。