NFTに関わる者にとって、2022年は率直に言って、多くの人が「こんなはずではなかった」と思う年だったのではないかと思います。
そして年は明けて2023年、今年1年のNFT界隈はどのように推移するのでしょうか。未来がどうなるかを言い当てることは不可能ですが、過去と現在を分析し、この先の展開について予想するぐらいのことはできるはずだと思い筆を執りました。当たるも八卦、当たらぬも八卦、おみくじ気分で読んでいただければ幸いです。
2023年は暗号資産全体として、投機対象としての魅力はまだ低く、投機目的のマネーが集まってくるのはもっと先でしょう。世界経済は金融引き締めに動き、じゃぶじゃぶにばらまいていたマネーは回収されるターンが続くはずです。外部からマネーが流入せずに発行数が増えていく以上、NFTの投機対象としての価値は目減りしていくでしょう。
しかし、NFTと紐付けられたデータ自体の価値は変わらないはずです。素晴らしいイラストやアートワーク、参加するコミュニティーの楽しさ、保有していることで受けられるサービスの価値が損なわれるわけではない。今年はそういった、保有することで得られる価値のために購入されるNFTが増えるでしょう。
今年のNFTは、投機対象としての価値が減った分、低価格化していき、結果的に少数のアーリーアダプターのものから、アーリーマジョリティのものへと変質する年になるでしょう。その代わり、値上がりを見込むことも難しい。
投機対象としてのNFTから消費財としてのNFTへの変化が、今年起こると予想しています。
世間的に広く名前が知られた企業がNFTを発行する、あるいはバックに付いたプロジェクトの比率がさらに増えるでしょう。一方で、ファウンダーやチームがdoxされていないプロジェクトは今まで以上に回避されるでしょう。
NFT自体の値上がりが期待しにくいので、次に出てくるプロジェクトのAllowlistが優先的にもらえる、という理由で買ってもらうことは難しくなっていきます。NFTというカテゴリー自体への期待感で買われる時期は過ぎ去りました。
もはや供給枚数は「発行側が売りたい枚数」で判断していいものではなくなっています。価格と得られる価値、ターゲット層の人数から、「買いたいと考える購入側の人数」をしっかりマーケティングした上で、プロジェクトを立ち上げるかどうかを判断するべきです。
アーティストの人気や、アートワークそのものに価値を見出してもらうことは引き続き可能ですが、そのアーティストのファン層がどのぐらい広がっていて、この希少性ならいくらで購入したいと考えるか、それを慎重に見極める必要があります。以前のように、その部分の見積が甘くても暗号資産としての価値で売れていくことはなくなっています。
コミュニティー運営においても、単に人数を集めるだけでは売上につなげることはできなくなっています。そのプロジェクトのファンをどうやって増やすか、チャットに集まった人たちが毎日楽しく言葉を交わし合うような場をどうやって作り上げるか、運営チームは真剣に取り組まなくてはいけません。メンバーに当事者意識を持ってもらうためにはどうするか、当事者として巻き込んだ人たちに、どのような価値、利益を提供できるようにするか、今まで以上に真剣に考える必要があるでしょう。
保有することでフィジカルで何らかのサービスを受けられる種類の、会員証的なNFTの価値は相対的に高まるでしょう。そういったビジネス面での展開を泥臭くしっかりと固めることで、プロジェクトの成功率は高まります。
いわゆるブルーチップの価値は引き続き安定し続けます。ブルーチップの価値は、そのホルダーコミュニティーが豊富な資金力を持ち、その動向がアート系をはじめとする様々なプロジェクトの価格動向をコントロールできるという事実により支えられているからです。
「スマートコントラクトを使った面白い仕掛け」は引き続きアートの一部として目を引くフックとなり得ます。しかし、保有すること自体に何らかの機能を持たせない限り、長期的にホールドする理由とは見なされないでしょう。
コレクターがNFTを資産として、同等以上の価値での転売に期待することはできなくなっています。あくまでも消費の対象として、その作品を所有することの価値に見合った値段でアートワークを購入するコレクターの比率が相対的に高まります。
NFTは耐久消費財ではないことに留意しなければなりません。新たなNFTが次々と発行されてくるにもかかわらず、既に世の中に存在するNFT自体は永続的に残り続けるため、その価値は希薄化していきます。買い手が付かない旧作の価格は、徐々に引き下げたほうがいいかもしれません。
これまで、個人発行NFTの販売方法としては、PFPコレクションと、一点もののFoundationでの販売が主流でしたが、2022年の終わり頃から、低価格でのエディション(同一作品の複数点販売)が普及し始めています。これは、Manifold.xyzで独自コントラクトを作成して購入者にmintしてもらう仕組みで、コレクターの購買力が低下している市況の中で、新たな販売戦略の軸となるものです。
発行方法については、ranbutaさんの記事 ManifoldのClaim Pageの使い方 が大変参考になります。
https://mirror.xyz/ranbuta.eth/ELLH2mFs2dZnu2CD78WUG62Kw-hOyUJm5kVGULtlxg0
このエディションでの低価格展開が広まるきっかけの一つになったのが、謎の赤髪の男性こと rwx さんのこちらのジャーナルです。cryptoマーケットが大きな打撃を受け冷え込む中、個人のNFTクリエイターの作品制作と販売戦略を考える上で、目を通しておくべき素晴らしいテキストです。ぜひご一読を。
日本語訳はこちら。
コレクターがあなたの作品をエディションで買いたいと思う理由は、「1/1の価格では手が届かないから」です。エディションの価格は、これまでに販売してきた一枚絵やPFPコレクションの価格との対比で決めるのがいいでしょう。現時点では、1/1価格の1/10ぐらいだとコレクターの財布の紐は緩みがちです。0.01~0.02ETH以下なら衝動買いする、というコレクターも少なくありません。
エディションの中でも、用途によって発行枚数と価格帯、そして規格を使い分けることを意識しましょう。
個人的なイメージとしては、ERC-721はアーティスト自身がサインを入れた複製画、ERC-1155は大量に印刷される絵葉書とかポスターのようなものだと思っています。
季節のグリーティングカードであれば0.01ETH以下で期間限定、枚数多めでERC-1155での発行、Foundationの一枚絵相当のものを複数枚発行する場合には、枚数を多少絞った上で、(単価)✕(枚数)が平均的な落札価格程度になるところよりも「ちょっとだけ」安く設定してERC-721での発行、というのがおすすめです。
Manifoldで発行する場合、ERC-1155だとFoundationには表示されず、721だと表示されるというのが最大の違いになります(ガス代は若干1155のほうが安くなります)
昨年はAIを使ったイラスト生成が大きく話題になり、目に触れる機会が多くなりました。生成されるイラストの質も、主題によってはかなり完成度が高く、クリエイターが描いたものと遜色がないようなものも見受けられるようになってきました。しかし、コレクター的な観点から見ると、AIを使って作成したイラストへの抵抗感、忌避したい感覚は未だに残っています。AIを使用している旨を隠していればアウト、明言していればギリギリセーフ、というぐらいでしょうか。
AIイラストを避けたい理由は、「イラストの生成、およびAIの開発過程において学習させてきた膨大な画像データが、作者の知らないところ、求めていないところで使用されたものかもしれない」という漠然とした不安によります。法律上の問題というよりは、道義的、思想信条的な問題として、クリエイターが長い時間をかけて積み上げてきたイラスト文化に敬意を払うべきだと考えるクリエイター、コレクターはまだまだ多くいると思います。
一方、そのあたりの問題がしっかりとクリアされていれば、ツールとしてのAIを取り入れることで、イラスト文化が一歩前に進むことは想像に難くありません。現在、Photoshop/Clip Studioのレイヤー機能やブラシ機能やAfterEffectsのテンプレートが良くないものだと考える人はまずいないのと同じように、AIによって支援されることで、クリエイターがより創造的な作業に多くの時間を割くことができるようになるでしょう。今年はまだ過渡期ですが、近い将来、AIとうまく折り合いを付けて、ちょうどいい使い方が見つかるのではないかと予想します。
冒頭で述べたように、NFTは投機マネーを吸い寄せて大儲けできるようなものではなくなり、デジタルデータを適正な価格で流通・販売するための手段へと緩やかに変化していくでしょう。
NFTプロジェクトは企業案件やWeb2/フィジカルでの実績があるアーティストの参加が増えて安心して参加できるものが増えていく一方で、匿名性と自由を重んじるWeb3的な考え方を愛する人たちも依然界隈に残り続けるので、二極化が進むと思います。その中において、私たちプレイヤーも、安心安全なサービスに参加するための、自分自身の人格と紐付いた「Web2的な」ウォレットと、本来の「Web3的な」ウォレットの両方を使い分けるしたたかさが必要になってくると思います。
いち早く情報を手に入れてdiscordに入り、無意味なチャットでレベルを上げたり、プロジェクトとは関係ないミニゲーム大会やくじ引きでAllow Listを手に入れさえすれば、濡れ手に粟のボロ儲けができる時期はもう過ぎ去りました。これからは、ローンチ後の活動で何らかの価値を生み出し続けるプロジェクトだけが、生み出した価値に応じた利益を得ることができるという、世間的には至極当たり前の状況になっていくと思います。
その中で脱落せずに生き残っていくためには、誠実に何らかの価値を生み出してお互いを助け合う輪の中に入ること、give & awayの「give」ができる人だと周囲から認められるよう、背筋を伸ばして真面目にコツコツ活動するしかないと思います。NFT以外の活動・お仕事で食い扶持を稼ぎながら、来るべき次のブルマーケット(今年なのか来年なのか、それとも再来年以降なのかはわかりませんが)に向けて爪を研ぎ続けるとしましょう。