Web3.0勉強会: 2. 市場環境
May 13th, 2022

こんにちは!iscream株式会社代表の成田です。

Web3.0勉強会の資料から今回は第2章の「市場環境」についてです。

第1章にてWeb3.0の背景や全体像を把握できたと思うので、今回で現在の市場環境や主要なサービスについて理解してもらればと思います!

1.Web3.0とは (←前回)
 概要
 ブロックチェーン
 スマートコントラクト
 データ所有・アクセス
 Web3.0 Stack

2. 市場環境 (←今回)
 概況・市場規模
 NFT
 DeFi
 DAO
 最近のビジネスモデル

3. Web3.0の特徴・従来のビジネスとの違い (←次回)
 トークンエコノミー
 カルチャー
 競争優位性
 サービス構築
 投資

第1章は↓

第3章は↓

尚、スライドだけざっと眺めたいという人は最後にSlideshareのリンクを載せています。

市場概況

市場概況
市場概況

スマートコントラクトが利用できるブロックチェーン「イーサリアム」が2015年にリリースされ、2017年頃から様々なアプリケーションがイーサリアム上で開発され始めました。最初に盛り上がりを見せた活用例はICO(Initial Coin Offering)でした。世界中から手軽に大きな資金調達ができることから多くのCryptoプロジェクトで数十〜数百億円規模の調達が盛んに行われ、大きなものでは数千億円規模にのぼりました。その後、数ページのホワイトペーパー(プロジェクトのコンセプトを記載した白書)だけで実態がない詐欺のようなプロジェクトもあったことや、2018年初の大手暗号資産取引所のCoincheckによる580億円にものぼる顧客資産のハッキング事件もあり、暗号資産のマーケットは冷え込みました。

暗号資産のイメージは低下しましたが、ブロックチェーン技術への期待は引き続き高まり、2018-19年には様々な産業でブロックチェーンを活用した実証実験がなされました。この時期は大企業も盛んに取り組みを進めていましたが、まだブロックチェーンが技術的に未成熟だったことや、ブロックチェーン活用が目的化しブロックチェーンの特徴が活きる分野以外での取り組みもあったため実用化まで進んだプロジェクトは必ずしも多くなかったと記憶しています。一方で、前回解説したようなブロックチェーンの利点が生きる領域においては着実に活用が進んでいて、スライドに記載しているファイナンス、サプライチェーン、保険、不動産、エネルギー、メディア・エンターテインメント、ファッション・小売、ヘルスケアなどでの領域で事例が生まれています。
(ブロックチェーン開発のトップ企業のConsenSysのWebサイトにあるブロックチェーンの活用領域のページから抜粋しているので興味のある方は確認してみてください。)

また、この期間、ブロックチェーン技術の主な課題であったスケーラビリティ問題(処理速度の遅さとそれによる取引コスト増)について解決する技術(セカンドレイヤーやサイドチェーン、シャーディング、ペイメントチャネルなど)の開発が着実に進み、新たなブロックチェーンも続々と生まれる等、その後の2020年からのDeFi(Decentralized Finance/ブロックチェーン上での金融サービス)の盛り上がり、2021年から今に続くNFT(Non-fungible Token/詳細後述)の勃興に繋がっています。

市場規模

市場規模
市場規模

足元のWeb3.0の市場規模についておさらいします。 スライドでは、捕捉可能で既に一定の規模がある市場として、暗号資産、DeFi、NFTについてまとめています。

国内では2021年の野村総合研究所の調査で暗号資産の保有率は1.7%、NFTに関する調査でも日本人の90%が知らないと回答するなど、Web3.0関連のサービスの認知度は未だ低いのですが、スライドの通りWeb3のグローバルの規模感は国内の比較しうる市場と同等規模まで成長しています(詳細解説はこちら)。誤解を恐れずに端的に言うと、既に日本の経済規模に匹敵する市場があり、これがほぼゼロの状態からわずか5年ほどで形成された急成長市場だと考えるとそこにVCなどの投資家や投機マネーが集まっていることも頷けます。

DeFi

DeFi (Decentralized Finance)
DeFi (Decentralized Finance)

前述の2018-19年のブロックチェーンビジネス開発ブームやマーケットが冷え込んでいた期間も着実に技術者の方々が開発を進めてくれたことが、2020年夏頃からのDeFiの急拡大(所謂、DeFi Summer)につながります。昨年のピーク時ではDeFiプロジェクトの時価総額合計は$174bil、預金額に近い概念のTVL(Total Value Locked)は$240bilにまで成長しました。

DeFiは2018年頃から様々なサービスが開発され、代表例としてはDEX(分散型取引所)、レンディング(暗号資産の貸借)、ステーブルコイン(国の通貨に連動した暗号資産)等があり、新たなサービスも次々と生まれています。色々な種類のサービスがありますが、多くのものに共通する仕組みとしては、個人が資金を預けたものをスマートコントラクト上でまとめてプールすることで運営者不在の銀行を作り、そのプールを利用する利用者から受け取る手数料を利子のように分配するという点があります。Uniswapはこの流動性プールと取引価格を自動で決定するAMM(Automated Maket Maker)の仕組みにより、CEX(中央集権的な取引所)の手数料高・ハッキングリスクという課題とそれ以前のオーダーブック(取引板)形式のDEXの流動性の課題の両方を解決し、初期のDeFiの拡大を牽引しました。この流動性プールによりCryptoの世界で収益を得る方法に、値上がり益によるキャピタルゲインに加え、預けて増やせるインカムゲインの概念(Yield Farmingという専門用語も誕生)が持ち込まれ利用が広がりました。

更に、2020年のブレイクのきっかけとしては、Compoundという大手のレンディングサービスがガバナントークンという会社でいう株式のようなトークンを利用者に配布しはじめたことが挙げられます。サービス拡大によるトークン価格上昇を期待した人たちが利用を増やしたこと(Liquidity Mining)で一気に需要が拡大しました。需要増に伴い価格が上がったトークンの影響で、レンディングの利率が既存金融では考えられない水準の高騰(数十%〜数百%)を見せ、それを真似たDeFiサービスが次々に生まれました。

DeFiのプロダクトは多様化しており、巧みに作り込まれた設計から昨年大きな盛り上がりを見せた同種のトークン (ステーブルコイン等) 同士のDEXのCurveのような既存の世界では理解しにくいプロダクトから、オプション・先物等の既存金融のブロックチェーン上での実現やそれを組み合わせたRibbon Financeのような仕組商品なども生まれています。複雑な金融商品では金融機関と投資家の間に情報の非対称性が生まれやすくリターンに見合わないハイリスク商品が販売されることが問題となるケースがあり、オープンソースで他のプロダクトとも組み合わせやすくコードを検証可能なWeb3とは相性が良いとも考えられていて、次々と組み合わせられ新たなプロダクトが生み出される様子からマネーレゴとも称されています。日本人創業者のケースとしてもSecured FinanceやCegaのようにグローバルの著名なVCから資金調達をし注目されているプロジェクトもあります。

個人的には現在のDeFiの利用は投機の資金流入による盛り上がりの要素もあると思う一方で、大手ヘッジファンドBridge WaterのRay Dalioをはじめとする金融のプロやAppleのTim Cookのようなテックの大物達がビットコインを金融資産として認め国の通貨のヘッジに活用している現実を踏まえると、暗号資産が今後ますますアセットクラスとして認められていく蓋然性は高く、その中で必須となる金融サービス=DeFiも今後、更に拡大していくと考えています。余談ですが、昨年末のCoinbase JapanのYouTubeでSecured Financeの菊池氏が今のDeFiは短期の取引市場(Money Market)しかない一方で、既存金融のデリバティブのマーケット規模(取引所:$65tri、OTC:$582)を踏まえると長期の市場(Capital Market)を実現できれば、$Trillion規模にはなると言う話をされていて成長余地の大きさを感じました。

NFT

NFT (Non-fungible Token)
NFT (Non-fungible Token)

NFTは昨年初あたりから突如大ブレイクし、国内のメディアでも頻繁に取り上げられ流行語大賞にノミネートされるなど大きな話題となりました。国内で一般の人も巻き込みこれだけブロックチェーン関連で話題になったのは、2017年の仮想通貨バブル以来のような気がしています。

NFTはNon-fungible Tokenの略で直訳すると非代替性トークンとなります。1円玉はどの1円玉でも同じ価値なので代替可能なトークン(BTCやETHも同じ)であるのに対し、NFTは夫々のトークンに固有のIDが割り振られていることからトークン毎に資産を紐つけることが可能で、それによりそれぞれが固有な価値を持つトークン(=非代替)となります。NFTに紐つけた資産の所有者、過去の取引履歴がブロックチェーン上に記録されるため、コピーが自由にでき価値付けが難しかったデジタルアセットに所有権の概念が生みだされ活用が進みました。このようにNFTはあくまで所有権証明に使えるものですが、一点よくある誤解で、デジタルアセットの唯物性や真正性を保証できるものではなく、本物がどうかというのは、DRMや電子すかしといった、また別の技術分野の話になるので注意が必要です。

国内でも話題になりましたが、グローバルで見るとその盛り上がりは比較できない規模で、2021年の実績で見ると月間取引額は1月から12月で5,438%成長し、年間取引額は$23.9bilとなりました。またその多くが既存のIPではなく、新しく生み出されたコンテンツであることを考えるとまだまだ成長余地があると見られています。

NFTは突如ブレイクしたため、新しい技術であると思う人もいると思いますが、2017年頃から既にあった技術で過去何度かの盛り上がりがありました。最初の盛り上がりは2017-2018年頃で、イーサリアムでERC721というNFTの一般規格が定められ、開発者がNFTでのサービスを開発しやすくなったことで起こりました。猫のブリーディングゲームであるCrypto Kittiesが火付け役で、ゲーム領域でアイテムが2次流通可能になったことで一体の猫の画像のNFTが10百万円以上で取引される事例も発生し話題になりました。また、その後に業界をリードしたのが日本のDouble Jump Tokyoが開発した対戦型RPGゲーム My Crypto Herosで、2018年頃はDAU/取引量/取引額で世界一のNFTゲームとして市場の成長を支えました。

その後、ブロックチェーン活用の技術的な課題である処理速度やガス代(取引コスト)の影響もありしばらくの間は市場が拡大しませんでしたが、イーサリアムでのサイドチェーンやセカンドレイヤー技術の進化や他の高速なチェーンの成長、DeFiブームにより暗号資産の価値が上がりNFTも価値付けされやすくなったこと、テックセレブたちがSNS上で盛り上げたことも相まって2020年末から2021年初にかけて急成長しました(取引総額 2020年4Q:$52.8mil → 2021年1Q:$1.2bil)。この時期の盛り上がりを牽引したのは、Collectable(収集物)の領域です。Crypto Kittiesを開発したDapper Labsが手がけたNBAの過去の名シーンをNFT化したNBA Top ShotはNBAという人気コンテンツと紐つけたことで一般層にも広く受け入れられました。またデジタルアートもNFT化することで高額な取引がなされ、Beeple氏が10年以上に渡り毎日発表し続けたデジタルアートをひとまとめにしたEVERYDAYSというNFT作品は権威のあるクリスティーズのオークションで$69.3milという高値がつけられ大きなニュースとなりました。

コピー可能なデジタルアートをNFT化して所有権を証明することができるようにしただけで価値化され高値が付くことに、なぜ?という声がしばしば聞かれますが、これは実物のアートの場合も高額なものや希少なものの場合、そのアートを家に飾って鑑賞できるという点に加えて、むしろそれ以上にそれを所有していることの満足感・承認欲求とそれに付随する社会的ステータスが大きいことを考えると不自然ではない気がします。言い換えると、アートなどのCollectable領域の場合は、もともと「鑑賞する」という機能以上に「所有している」という精神的な価値が大きかった領域であったためNFTとの相性が良かったものと言えるのではないでしょうか。

そして、2021年Q3以降、今に続く大きな波を牽引しているのが、所有の価値に加えてUtility(機能性)の価値も加わったNFTです。この波の大きさは驚異的で取引総額は 2021年2Qの$1.3bilから2021年3Qの$10.7bilと10倍以上に跳ねがりました。この成長を牽引したのはPFPと呼ばれるTwitterなどのSNSで使えるプロフィール画像からスタートしメタバースのようなオンライン世界へ繋がるBored Ape Yacht Club(BAYC)やCloneXのようなプロジェクトや、X to Earn(Xをすることで稼げる)の先駆けとなったPlay to EarnゲームのAxie Infinityのようなゲーム領域でした。どちらもコロナ禍によるオンライン時間の増加やコミュニケーションやコミュニティ帰属への欲求が後押したとも考えられています。最近では、NFTをコミュニティ参加や特定のサイトへのアクセスキーとしての活用も広がっており、POAPのような証明書としてのNFTも一般的になってきています。

このようなコンテンツやIP以外でのNFTの活用の広がりは事業者目線でも重要で、事業展開範囲の拡大を意味します。前回の第1章の「データ所有・アクセス」での触れた通り、Web3.0では事業者はユーザーの情報を集積するのが難しくなりますが、このNFT活用の広がりはユーザーのウォレット(暗号資産やNFTを保管するツール)に趣味・嗜好、行動履歴が蓄積されていくことに他ならず、事業者にとってはこのウォレットに如何にアプローチしていくのかがWeb3.0のマーケティングの肝となり、それを支援するサービスも増えてきています。

DAO

DAO (Decentralized Autonomous Organization
DAO (Decentralized Autonomous Organization

DeFi、NFTの次のブームと言われているのがDAOで、ブロックチェーンとスマートコントラクトにより実現する特定の管理者や主体を持たない自律分散型の組織のことを指します。ブロックチェーンの世界ではCode is Law(プログラムが法律)と言われますが、DAOも元々はプログラムによって全て自動執行される運営形態のことを言い、究極のDAOはビットコインだという人もいます。現在では解釈の幅が広がり、ブロックチェーン上のプログラムで決められないものは構成員で合意形成をするものも含めてDAOと呼ばれていて、企業における株式のような意思決定の際の議決権の役割を果たすのがガバナンストークンです。

企業のような従来の組織との違いは様々ありますが、以下に特徴的なものを例示します。(全てのDAOが該当するわけはないので、あくまで傾向として認識してください。)

  • 帰属が契約に縛られる従来型の組織とは違い、オープンに誰でも参加でき参加度合いも自由で貢献に応じて報酬が与えらえる
  • 報酬のトークンがガバナンス投票にも用いられるため、資本家と労働者という資本主義の構図に比べ、より民主主義的でボトムアップなアプローチ
  • プログラムによらない主な意思決定としてプロジェクトの方針や組織の運営方法、得られた収益の使途などがあり、その運用のための様々なDAOツールが増加(次節参照)

DAOは共通目的を持つオープンなコミュニティやプロジェクトで活用が進みつつあり、金融関連(InvestmentDAO)やクリエイティブなプロジェクト(MediaDAO、CreatorDAO)などで利用が進んでいますが、それ以外でも既に様々な領域に拡大しています。資本に縛られた硬直的な組織ではなく、貢献に応じて適正な報酬が支払われるコミュニティ型の組織であるためフリーランス的な働き方やシェアリングエコノミーなどの現代の働き方にもマッチしているとも考えられています。

スライドでは、この記事でも利用している出版物をNFT化したりクラウドファンディングすることもできるイーサリアム上の分散型ブログ、Mirrorを例示しています。トークンホルダーが提案し投票で開発の方針や仕様に関与していくことが可能で、現在は誰でも利用可能になっていますが、初期はコンテンツの品質を担保するために新規ライターを既存ユーザーの投票による承認制にする等の取り組みもされていました。

一方で、DAOの仕組みも未だ完全ではなく試行錯誤が続いていて、多くのDAOを志向するプロジェクトも運営者の影響が強く分散しきれていないものが殆どであるとも言われています。この点は、初期は運営がリードしないと発散してしまいプロジェクトが成長しないという側面もあり、徐々にDAOに移行するというのが最近の傾向かなとも思いますが、今後、様々な取り組みがなされる中で成熟していくものと考えられます。また、制度面の課題も大きく、各国で運営者がいない組織を法制上のどの形態に該当させるのか、税金をどのように徴収するのか等の議論が進められています。

最近のビジネスモデル

Web3.0の最近のビジネスモデル
Web3.0の最近のビジネスモデル

DeFi、NFT、DAOだけでなく、新しいアプリケーションやそれらを取り巻く様々なプロダクト・ツールが日々生み出されています。ここで全て網羅するのは不可能なので、個人的に興味があるInfrastructureやAncillaryの中の他のレイヤーのプロダクトに活用される以下のものをスライドでは例示しています(Web3.0のレイヤー分けは第1章の「Web3.0 Stack」をご参照)。これらにご興味のある方、また、これ以外にも面白いビジネスモデルをご存知の方はぜひディスカッションしたいです。

  • NFT x DeFi
  • NFT aggregator
  • Community management tool
  • Gateway, Notification
  • Builder
  • NFT rental

最終回となる次回は、Web3.0でサービス開発や投資などの取り組みを始めるにあたり理解しておくべき、Web3.0の特徴や従来のビジネスとの違いについて解説します。

第1章は↓

第3章は↓

勉強会のスライド全体は↓

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